「舐める」コミュニケーション
人同士のコミュニケーションには「舐める」という行為はあまり登場しません。
しかし、多くの哺乳動物にとって「舐める」という行為はコミュニケーション手段の中でも大きな役割を果たしていると言えます。
母犬と子犬間、また犬間同士のコミュケーションとしても、とても頻繁に「舐める」という行為が見られます。
さらに犬は、人とのコミュニケーションの中でも「舐める」という行為をよく行います。
ほかにも、自分自身を執拗に舐め続けたり、時には生き物ではない家具や床を舐め続けることもあります。
今回は、このような犬が犬以外の相手を舐める際の心理や注意点について、考えていきたいと思います。
犬が舐める時の心理
1.しっぽを振りながら嬉しそうに飼い主さんを舐める
犬と人のコミュニケーションにおける「舐める」行為で真っ先に思い浮かぶのが、愛犬が嬉しそうにしっぽを振りながら帰宅した飼い主さんの口元や手などを舐めている光景ではないでしょうか。
この時の犬は、飼い主さんへの愛情を一所懸命に表現しています。特に口元を舐める行為は、離乳期の子犬が母犬に食べ物をねだる際の行為に由来する、最大級の愛情表現だと考えられています。
飼い主さんを遊びに誘う時にも、しっぽを振りながら飼い主さんの手をよく舐めます。また初対面の人であっても、ニオイを嗅いで気を許せそうな相手だと感じると、挨拶として口元を舐めようとする場合があります。
2.叱られた時に飼い主さんを舐める
飼い主さんが愛犬を叱っている時に、愛犬に舐められたことがないでしょうか。これは、決して状況を理解していないとか、愛嬌を振りまいてごまかしているというわけではありません。
叱られていることを自覚し、飼い主さんの怒った顔や怖い雰囲気に緊張しているのです。そして、飼い主さんに敵意がなく、従う意志があることを示すことで、飼い主さんにも怒りを鎮めてもらいたいという気持ちが現れた行動なのです。
もし、飼い主さんが愛犬を叱りつけている時やその直後に愛犬が舐めてくるようなことがあったら、愛犬が理解したと受け取って、叱るのをやめてあげてください。
3.お手入れの最中に飼い主さんを舐める
ブラッシング、爪切り、耳掃除、歯磨きなどの愛犬のお手入れ中に舐められることがあったら、それは飼い主さんに対する抵抗のサインです。もう我慢出来ないのでやめて欲しいと言っているのです。
お手入れが苦手な犬や、まだ迎えたばかりで緊張しているような場合は、はじめから手早くお手入れが済むような工夫が大切です。
そしてこのサインが出たら一旦やめ、続きは少し時間が経ってから始めるようにしましょう。
たとえば爪切りが苦手な子の場合は、1日に1本ずつからはじめて慣らしていくのも良いでしょう。
4.自分の体を延々と舐め続ける
ここでは、犬が自分の足先やしっぽなどを延々と舐め続けるという行為について考えてみましょう。
通常の毛づくろいとは異なり、四六時中自分の体の同じ場所を舐め続けるのは、自傷行為と言って問題行動の一つです。毛が抜けたり出血したり、皮膚炎の原因になったりするからです。
こういった行動が出る原因の多くが、ストレスや退屈です。運動不足や飼い主さんとのコミュニケーションが不足していないか、直近の状況を見直してみましょう。
また、近所で始まった工事の音などに怯えている場合もありますので、心当たりがある場合は、落ち着ける居場所を作ってあげましょう。
5.家具や床を延々と舐め続ける
食べ物が落ちたり付いたりした場所を舐めているのであれば、すぐにやめるはずです。いつまでたってもやめない場合は、自傷行為と同様にストレス、退屈、不安などの気持ちから出ている行動だと考えられます。
床や家具の場合は、塗料や金属、異物などを飲み込んでしまう危険性も高いため、愛犬が落ち着ける安全な場所を用意して、落ち着かせましょう。天井部分と側面が閉じているような形状だと、犬が安心しやすいです。
また長時間の留守番には、時間をかけて頭を使わないとおやつが食べられない仕掛けの、犬用の知育玩具を活用するのも効果的です。
愛犬の舐める行為に注意すべきポイント
犬が人を、それも特に口元を舐めることで高まるリスクが、「パスツレラ感染症」などの人獣共通感染症です。犬は平気でも、免疫力が低下していたり、基礎疾患を持っていたりする人は発症するリスクが高いです。
また、犬は尿や便を舐めている可能性もあるため、衛生面で大きな問題が生じる可能性も高いです。愛犬が口元を舐めようとしたら、コマンドで制止できるようなしつけや、愛犬の唾液が付いた手はなるべく早く石鹸で洗うことを習慣づけましょう。
まとめ
愛犬が飼い主さんを舐める、それも特に口元を舐めるのは最大限の愛情表現です。愛犬からの愛情表現は嬉しいことですが、人獣共通感染症のリスクも考慮する必要があります。
日頃から、基本的なしつけをしっかりと行い、飼い主さんがさせたくない行動は制止できるようにトレーニングをしておきましょう。
その代わり、愛犬がコマンドに従うことができた場合は、しっかりと褒めて口元が舐められなかったことがストレスにならないように、しっかりとケアもしてあげましょう。