「オキシトシン」とは
「オキシトシン」とは、大脳の視床下部というところで合成され、大脳の下部にぶら下がっている下垂体という器官から分泌されるホルモンで、様々な脳の部位に作用してその機能を調節する大切な物質です。
出産の際に子宮を収縮させたり、乳腺から乳汁の分泌を促進するなどの働きがあるため、始めは女性特有のホルモンとして研究されていましたが、近年では男性にも普遍的に存在することが分かっています。
またいまではこのオキシトシンは下垂体だけでなく脳の内部でも分泌されることが分かり、このホルモンが脳内でもなんらかの働きをしているのではないかと考えられるようになりました。
その働きが「抗ストレス作用」や「摂食抑制作用」です。このほか母子の愛情や集団生活の中で人間関係を築く社会的行動にも関与している点も注目されています。
つまり、オキシトシンが分泌されると精神的に安らぎストレス反応が抑制され、不安感が減少していくということが期待されるのです。
このことから、オキシトシンを「幸せホルモン」と呼んだりするんですね。
犬とのふれあいで「オキシトシン」の分泌が増える?
犬たちと触れ合うとほっとしたり、気持ちが穏やかになりませんか?
昔からこのような効果があるということをヒトは感覚的に知っていましたが、なぜかは分かっていませんでした。
AAA(動物介在活動)においても、犬や猫とふれあうことでお年寄りの活動量が増えたり、子どもたちの笑顔が増えたりするということも分かっていましたが、その効果についてはあくまで感覚的な評価でした。
しかし2000年頃から麻布大学で研究が重ねられ、犬との良好なふれあいをした場合、人にも犬にもオキシトシン分泌が増加しているということが分かったのです。
しかもこの触れ合う相手は「犬」限定です。チンパンジーやオオカミではお互いのオキシトシン量が増える結果が得られませんでした。
更に、猫が好きな人が猫と触れ合った際に分泌されるオキシトシン量より、犬が好きな人が犬と触れ合ったときのほうがより多くオキシトシンが分泌されたといいます。
つまり人と触れ合って、お互いに良くリラックスできる動物は犬だ、と言えることが分かったのでした。
オキシトシンと視線との制のループによるヒトとイヌの絆の形成
永澤美保・菊水健史
(麻布大学獣医学部 動物応用科学科伴侶動物学研究室)
Sience,348,333-336(2015)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25883356/
シーン別のオキシトシン効果
幸福感をもたらしてくれる
犬と見つめ合うことで分泌されるオキシトシンは、お互いが大切なパートナーであることを確認できることで飼い主にも、もちろん犬たちにも幸福感をもたらします。
オキシトシンの分泌量がふえることで神経伝達物質のひとつである「セロトニン」の分泌が増加し、副交感神経が優位となって不安感の減少やメンタルの安定に働きかけているといわれています。
ストレスを緩和してくれる
犬たちとふれあいその柔らかくて温かい身体に触れていると、気持ちがどんどんほぐれていきますね。
これはオキシトシンの分泌によりストレスを感じやすくなる「コルチゾール」というホルモンの分泌が抑制されるからといわれています。
集中力を向上させてくれる
オキシトシンによってストレスが緩和され、メンタルが安定してくると目の前の仕事や勉強に対して集中できるようになります。
人ではなくマウスの実験ですが、出産を経験したマウスと未出産のマウスに迷路を用いて実験したところ、出産を経験してオキシトシンの分泌量が多いマウスの方が迷路の中で餌のありかを学習する能力が高いことが認められたそうです。
まとめ
ふれあいを通して、犬と飼い主の両方にオキシトシン分泌量が増える効果があることが分かりました。
一方通行ではなくお互いの気持ちが通じたと飼い主が思っていることは、勘違いではなく犬たちも同様の気持ちでいてくれたことが嬉しいですよね。
お仕事で忙しかったり感染症などでストレスフルだったりする社会ですが、犬たちと触れ合う時間をゆっくりとってホッと一息ついてみてはいかがでしょうか。