急増する犬の盗難に応えてペット盗難タスクフォースを設立した英政府
コロナ禍によるロックダウンや在宅勤務の増加のために、世界各地で犬や猫を飼おうと思い立つ人が増えペットブームが続いています。そのため犬や猫の小売価格は高騰し、2019年の2倍近くになっている例も少なくありません。
そのような状況で、イギリスでは飼い犬の盗難が2020年から急増しています。警察に記録されているペット盗難の7割は犬なのだそうです。
犬が子犬であれば高値で転売し、不妊化手術をしていない場合には繁殖に使われることも考えられます。不妊化手術済みの犬でもオークションサイトなどで「譲ります」と偽って小銭を稼ぐのに利用されるという、なんとも腹立たしい酷い事例が増えています。
このような事態を重く見たイギリス政府は2021年5月に『ペット盗難タスクフォース』を設立しました。タスクフォースは政府関係者、警察、検察官、地方自治体で構成されており、盗難増加の要因を調査し、有効な対策のための証言を動物福祉団体、科学者、その他専門家から収集しました。
ペットの連れ去りは盗難ではなく誘拐!法改正の予定発表
ペット盗難タスクフォースの調査と報告を受け、イギリス政府は9月3日に「ペットの誘拐を刑事犯罪にすることを計画している」と発表しました。
現在のイギリスの法律ではペットは「財産」として見なされ、ペットを連れ去ることは携帯電話や自転車を盗難したことと同じ扱いになります。この場合、財産としての価値が高い=購入価格が高いほど罪が重いという解釈になります。
しかし法改正後は動物が単なる財産以上のものであることを認めており、ペットの連れ去りを「盗難」ではなく「誘拐」として扱い、より重い刑罰が科せられると予想されます。
イギリス最大の犬保護団体ドッグズトラストは、2018年にペット盗難は無生物とは違う扱いにして、より重い刑罰を与えるよう法改正を求めるレポートを発表しています。
家族として一緒に暮らしているペットを奪われた人の精神的苦痛は、犯罪者への刑罰に反映されるべきだというものです。この度のペット盗難タスクフォースの調査報告には、このレポートも含まれていたと思われます。
タスクフォースが推奨するその他の対策
ペット誘拐に関する法律の改正はペット盗難タスクフォースが調査報告の中で推奨している対策の1つです。その他の対策は次のようなものがありました。
- マイクロチップの登録情報をより詳細なものに規定する
- マイクロチップデータベースに公的機関が直接アクセスできるようにする
- ペットの盗難に関するデータを有効活用できるよう改善
- ペットのオンライン販売をするものに身分証明書を要求
- ペットの写真、DNA、マイクロチップなどの情報を警察に登録
これらは犯罪者がペットを誘拐して売ることを困難にして、犯罪者の逮捕につなげるための対策です。また動物が受けたダメージが犯罪者への刑罰に反映されることも推奨されています。
まとめ
イギリスで増加している犬の盗難について、イギリス政府がペット盗難を刑事犯罪として法改正する予定だと発表したニュースをご紹介しました。
イギリスでは2020年にコロナ禍によるロックダウンを実施して以来、ペットの需要が急激に増えて「パンデミックパピー」という言葉まで生まれるほどに犬を飼う人が急増しました。パンデミックパピーの福祉の低下を心配する専門家も多く、様々な分野の人々がその対策に奔走しています。
しかしそれが民間レベルに留まるのではなく、政府自らが調査機関を設けて法改正まで視野に入れるというのは何ともうらやましいことだと感じました。
ペットが法律上は「物」であるというのは、日本でも多くの飼い主が不満を感じている部分です。外国のこのような事例を知っておくことは、政府や自治体に働きかける際の有力な論拠になります。そのためにも頭の隅に置いておいて頂けると幸いです。
《参考URL》
https://www.bbc.com/news/uk-58423967
https://www.mdpi.com/2076-2615/8/5/78/htm