犬のオキシトシンを増加させた、家畜化とは別の要因とは?【研究結果】

犬のオキシトシンを増加させた、家畜化とは別の要因とは?【研究結果】

愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンですが、犬のオキシトシンを増加させた要因についての研究結果が発表されました。犬がオオカミと比べて人間に対して社交的な理由にもつながる結果でした。

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犬が社交的な理由とホルモンの関係を調査

犬とオオカミを比較すると、一般的に犬は人間に対してより社交的です。これは犬が家畜化された過程で人間と関わり合うことを好むようになり「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンの活動の増加と、ストレスで上昇する糖質コルチコイドの放出が減少した結果である可能性があります。

しかし「家畜化の過程」という長い歴史の中の話ではなく、個体それぞれの生活体験はホルモン分泌に関連していないだろうか?という研究は今のところあまり無いようです。

個々の犬の生活体験がオキシトシン等の分泌に影響しているかどうかを調査するため、オーストリアのウィーン獣医科大学と複数の大学や研究所の動物行動学者が実験を行い、その結果が発表されました。

群れで暮らす犬とオオカミ、家庭でペットとして暮らす犬を比較

調査実験にはウィーンのウルスサイエンスセンターで飼育されているオオカミ10頭と犬11頭、家庭でペットとして飼われている犬10頭が参加しました。

センターで飼育されているオオカミと犬は子どもの頃から人間の手で飼育されています。生後4〜5ヵ月を過ぎた頃から犬同士、オオカミ同士で3〜4頭の群れでセンター内の施設で暮らしています。

子どもの頃にそれぞれの養育を担当していた人とは皆特別に強いつながりを持っています。センター内で動物の世話をしたりトレーニングをする人のことも、犬もオオカミも親しみを持って接しています。

ペットの犬は研究のために参加を依頼した一般的な家庭犬です。

このように群れで暮らしている犬とオオカミ、ペットとして暮らしている家庭犬の3グループの犬が次のような条件で人間と相互に関わり合い、その後の尿中オキシトシン、唾液中および尿中のコルチコイドを測定。またセッション中の行動についても記録観察されました。

条件1. 親しくしているが強い結びつきがあるわけではない人間に撫でられる
条件2. 育ての親や飼い主など強い結びつきのある人間に撫でられる
条件3. 親しくしているが強い結びつきがあるわけではない人間から食べ物を与えられる

犬のオキシトシンを増加させたものとは?

板書されたオキシトシンの文字

3つのグループが3つの条件で実験セッションを受けた時の反応は次のようなものでした。

1.人間との身体接触

センター内で群れで暮らしている犬とオオカミの場合、強い結びつきのある人との接触に意欲的で、単に親しい人に撫でられた時とははっきりとした温度差が観察されました。

群れで暮らす犬は、強い結びつきのある人間とはセッション時間全体の88%に当たる時間を身体接触に費やしました。一方、単に親しい人の場合には身体接触の時間は68%でした。また、単に親しい人に撫でられた時にあくびをしたり自分の口周りを舐めるというストレスを示す行動も見られました。

オオカミの場合はもっと顕著で、強い結びつきのある人とはセッション時間全体の73%、単に親しい人とは32%の時間を身体接触に費やしました。

ペットの家庭犬では、飼い主との身体接触に使った時間はセッション時間全体の76.5%、単に親しい人との時間は61%とその差は小さくなりました。また、単に親しい人とのセッション中もストレスを示す行動はほとんど見られませんでした。

2.尿中オキシトシンの値

群れで暮らしている犬とオオカミではどちらも尿中のオキシトシンが一番高い状態になったのは条件3で食べ物を与えられた後でした。

また強い結びつきのある人間に撫でられた後と、単に親しい人に撫でられた後では、群れの犬とオオカミの両方が単に親しい人の場合の方がオキシトシン値が高くなっていました。これは意外な結果ですね。

ペットの家庭犬では、飼い主との身体接触の後のオキシトシン値は単に親しい人に比べて有意に高くなっていました。

3.唾液中と尿中のコルチコイド値

群れで暮らす犬とオオカミの唾液中と尿中のコルチコイドの値は、単に親しい人に撫でられた後に高くなっていました。単に親しい人との身体接触が長くなるとコルチコイドの値も高くなっていたことも分かりました。

ペットの家庭犬では、コルチコイドの値は飼い主と単に親しい人どちらでも明確な違いは見られませんでした。

これらの結果から、人間との接触に応じた行動とホルモン値の違いは犬が家畜化されたことよりも、個々の犬の生活体験による違いを反映している可能性があると研究者は指摘しています。

生活体験がホルモンの分泌にまで影響を与えることは、同研究者が犬の社会化プロセス中に内分泌系が後成的(環境や成長によって発現する)に調整されると述べていることと一致しています。

まとめ

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サイエンスセンターで群れで暮らしている犬と家庭でペットとして暮らしている犬のオキシトシン値を測定すると、家庭犬だけが飼い主との身体接触の後にオキシトシンが増加していたという研究結果をご紹介しました。

群れで暮らしている犬のホルモン値はオオカミに近いものだったことから、犬のオキシトシンやコルチコイドの分泌は個々の犬の生活体験による違いを反映している可能性が示されました。

家庭で暮らす犬は人間との結びつきが内分泌系に影響を与えるほどに強くなっているという結果を見ると、改めて犬との接し方をきちんとしなくてはいけないと背筋が伸びる思いがします。

《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-021-93922-1

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