犬は人間の意図をどこまで理解しているだろう?
犬の認知に関する研究は近年になって急速に進み、20年前にはわからなかったさまざまなことが明らかになって来ています。
しかし未だ研究されていないことの1つに、人間が犬に対して起こした行動が「意図したものか」または「意図せずに起きたものか」を犬が理解できるかどうかというものがあります。
「ある行動が、わざとか、偶然か」という件について、ドイツのゲッティンゲン大学の発達心理学の研究チームが調査実験を行い、その結果が発表されました。
実験には一般の家庭犬と飼い主が参加したので、この結果は私たちの日常生活と照らし合わせて考えるとなかなか興味深いものでした。
透明の仕切り板越しにトリーツをやり取りする実験
実験には51頭の家庭犬とその飼い主が参加しました。犬と飼い主がペアになって透明のアクリル板の仕切りを挟んで向かい合います。仕切りには飼い主の腕が通るくらいの隙間が開いており、飼い主はそこから犬にトリーツを与えます。
仕切りの両サイドはオープンで犬がその気になれば自由に飼い主側に回り込んでくることができます。
仕切り板の隙間からトリーツを与える際に、時々次の3種のことが起こるよう設定されました。
- A: 途中で意図的に与えるのを止めて、トリーツを飼い主側に置く
- B: 与えようとした際に手が滑って、トリーツが意図せず飼い主側に落ちる
- C: 隙間が閉じられて与えられないので、トリーツを飼い主側に置く
いずれの場合も透明の板ごしに見えているトリーツを取るために、犬が仕切りを回り込んでこちらに来ることが許されています。
これら3つの状況で犬がどのような行動をしたかを録画し観察分析が行われました。
こちらが実験風景のスライドです。
https://youtu.be/Lak4B-CtApk
犬たちが見せた明らかな行動の違い
犬が仕切りを回り込んで飼い主の前に置かれたトリーツを取りに来るまでの時間は、ABCそれぞれ違っていました。
飼い主が意図的にトリーツを与えなかったAは犬が動き出すまでの時間が一番長くなっていました。一連の動作のうち待っていた時間は平均43%を占めました。
飼い主が意図せずにトリーツを落としてしまったBでは、犬はもう少し早く動き始め、一連の動作のうち待っていた時間は平均32%を占めました。
仕切り板の隙間が閉じられて飼い主がトリーツを与えることができなかったCでは、犬は最も早く動き始め、一連の動作のうち待っていた時間は平均25%を占めました。
また一部の犬(13頭)はトリーツを受け取ることができなかったとき、回り込んで移動せずにその場でオスワリやフセの姿勢を取りました。この行動が見られたのはAの状況が65%と最も多く、Bでは12%、Cでは24%でした。
このように飼い主側にあるトリーツが「飼い主が意図してそこに置いてある」のか「飼い主の意図に反してそこにある」のかで、犬たちの行動は明らかに違っていました。
トリーツをもらえないのは飼い主の意図に反する場合は短い待ち時間で積極的に取りに来る犬が多いこと、飼い主がわざとトリーツをくれない時にはオスワリやフセでアピールしてみる犬がいること、これらは犬が人間の行動意図を理解している可能性を示しています。
この実験は非常に単純で、犬たちの過去の訓練の経験なども考慮していないため、さらに調査が必要だということです。それでもなお、この調査結果は犬が人間の意図=心を理解する一面をもつ可能性について最初の証拠を示していると研究者は述べています。
まとめ
飼い主が意図してトリーツを与えなかった場合と、飼い主の意図に反してトリーツを与えられない場合では犬の行動に明らかな違いがあり、犬は人間の意図を理解している可能性があるという研究結果をご紹介しました。
日常生活の中でも何となく「ああ、そういうことがあるなあ」と思わせる実験ではないでしょうか。ただし、研究者はこの実験に関して「普段からわざと焦らしてトリーツをなかなか与えなかったり、犬をからかったりしている場合は明確な違いが分かりにくくなるかもしれない」と述べています。
犬が飼い主の意図をある程度読み取って理解するとしたら、犬を焦らしたり、からかったりすることは犬と人間の関係性を損なうことにしかなりません。犬の心理学が明らかになって行くことが、犬との関係性をより良くしていくと期待されます。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-021-94374-3