獣医療データベースを基にラブラドールの疾患を調査
ラブラドールレトリーバーは世界中の多くの国で登録頭数上位の常連にいる超人気犬種です。飼育されている数が多いだけに、この犬種に特に多い疾患や障害について信頼できる証拠を得ることはとても大切です。
ラブラドールは歴史的に比較的健康な犬種と見なされて来ました。イギリスのケネルクラブが発表しているラブラドールの寿命の中央値は12.3歳と、全犬種を対象にした寿命の中央値11.3歳を1年上回っていることからもそれが伺えます。
しかし近年ではラブラドールの遺伝性疾患が増加していることが報告されており、健康的なイメージが損なわれつつあることはこの研究の背景の1つです。
イギリスの王立獣医科大学では、国内の一般の動物病院でペットが診療を受けた際の臨床データを、匿名化して記録する非営利研究プロジェクトを運営しています。その膨大なデータは特定の犬種や疾患などについての統計分析に非常に役立っています。
同大学の研究者は、この獣医療データベースを使ってラブラドールレトリーバーの疾患や障害が他の犬種と比べてどのような傾向があるのかを調査し、その結果を発表しました。
他の犬種よりもラブラドールレトリーバーに多い疾患は?
調査には2016年にイギリス国内で診療を受けた犬の臨床データが使用されました。総数22,248頭、うちラブラドール1,462頭のデータです。
研究者はラブラドールにおいて最も一般的な30の疾患と、ラブラドール以外の犬全部において一般的な30の疾患のリストを作りました。2つのリストの多くの疾患は重複していましたが、一部傾向の違う部分があり、組み合わせて35の疾患リストが作成されました。
この35の疾患について分析した結果、ラブラドールレトリーバーは他の犬種全体と比較して35種のうち12の疾患で有病率が高く、中でも特に有病率が高かった疾患は以下のものでした。
- 変形性関節症
- 脂肪腫
- 伝染性気管支炎(ケンネルコフ)
- 裂傷
- (関節などの)こわばり
疾患を「心臓疾患」「消化器系疾患」などグループ化したリストも作成され、ラブラドールと他の犬種全体との比較分析がされました。その結果、ラブラドールにおいて他の犬種よりも多かった疾患グループは以下のようなものでした。
- 歯科以外の口腔疾患
- 腫瘍
- 筋骨格障害
- 耳の疾患
では反対にラブラドールでは少ない疾患は?
調査では反対に他の犬種に比べてラブラドールでは目立って少ない疾患も挙げられ、リストにある35種の疾患のうち7つが、ラブラドールでは有病率の低いものでした。
特に有病率が低かった疾患は以下の通りです。
- 膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)
- 心雑音
- ノミ
- 乳歯遺残(にゅうしいざん)
- 歯周病
疾患をグループ化したリストでは、他犬種に比べてラブラドールに少ないものは以下の通りでした。
- ヘルニア
- 心臓病
- 歯科障害
- 寄生虫
- 眼疾患
この研究は一般診療を受けているラブラドールレトリーバーと、それ以外の全ての犬種の様々な疾患のリスクを比較するものでは、これまでで最大のものだそうです。
調査結果の信頼性を高めるために、個々の疾患についてさらに詳しい調査が必要だと研究者は述べていて、特に疾患リスクが高い理由と低い理由を解明することが重要だとしています。
まとめ
イギリスの動物病院で診療を受けた犬のデータを使って、ラブラドールレトリーバーとそれ以外の犬種の疾患リスクを比較した調査結果をご紹介しました。
ラブラドールに限らず特定の犬種に多い病気というのはいろいろな所で目にしますが、他の犬種に比べて有病率が低い病気というのは興味深いですね。
このような調査結果は、ラブラドールと暮らしている飼い主が特に注意して観察すべき点は何かを分かりやすくすることができます。今後は他の犬種でも研究が進むことを期待したいですね。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-021-93379-2