腹水とは
私たち人間を含む哺乳類には、肋骨の下部に肺などを支え呼吸を補佐する「横隔膜」という膜が張っています。
その横隔膜の下には、胃や腸といった消化器官や肝臓、腎臓という臓器が収まっているのですが、この横隔膜の下から骨盤にかけての部分はぽっかりとした空間になっています。ここを「腹腔」といいます。
健康に全く問題のない動物の場合も、この腹腔中にはわずかですが毛細血管から染み出た水分が腹水として存在し、臓器同士のクッションの役割を果たします。
この毛細血管から染み出た水分はリンパ管に吸収され常に体内を循環しているのですが、何らかの原因によりリンパ管の吸収力を上回る量の腹水が発生すると、水分が腹腔内にたまって留まり続けます。これが病的な「腹水」という状態です。
腹水が溜まっている状態になると、犬の様子も変化します。主な症状は次の通りです。
- お腹が重くなり元気がなくなる
- 消化管が圧迫され嘔吐をする、食欲が減退する
- 横隔膜の動きが阻害され呼吸が苦しくなる
- 常に体液が腹腔内に漏れているので脱水を起こす
食欲が落ちて呼吸が荒くなったり、嘔吐や脱水が見られる場合は熱中症など緊急を要する場合もあるので、犬の様子をよく観察して獣医さんを受診しましょう。
腹水が起こる原因
腹水の原因は主に血管や心臓の病気や、肝臓の病気、あるいは腹腔内で何らかの炎症が起こっている場合などが挙げられます。
循環器の病気
心臓の機能不全や弁膜症、フィラリア症等によって心臓の機能が低下すると、全身に送り出すべき血液が心臓内で停滞してしまいます。
この際、心臓には弁があるため簡単には逆流しないのですが、心臓から血液が出て行かないので静脈内の血液も停滞します。すると抹消や腹腔内の毛細血管から血液中の水分が染み出てしまいます。
これがお腹にたまると「腹水」となるのです。また水分がたまる場所はお腹の中だけではなく、胸にたまれば「胸水」になりますし、肺にたまることもあります。
特に「フィラリア症」によって心臓の右側(右心房、右心室)に血流の阻害が見られる場合、静脈から心臓に血液が戻れずに腹水として症状が現れることが多いようです。
肝臓・腎臓の病気
肝臓でのたんぱく質の代謝に異常がある場合や、腎臓の濾過機能に異常がある場合、血液中の「アルブミン」というたんぱく質が減少することがあります。
このアルブミンは血液中の水分量を保持する働きがあるため、これが減少することで血管から水分が外に漏れていきやすくなってしまうのです。
この症状を引き起こす病気で考えられるものは、「肝炎」や「ネフローゼ症候群」などが挙げられます。
腹腔内の炎症
お腹の中で腫瘍や細菌感染などによって何らかの原因により炎症が起こった場合、免疫系の血球を運ぶために炎症部位は血流が増加します。
その時、炎症部位付近では通常より多くの水分も血管から染み出すためリンパ管の吸収量を越えてしまい、結果として腹腔内に腹水として水分が残ってしまうのです。
この症状を引き起こす病気で考えられるのが、「子宮蓄膿症」や「膵炎」、「胆のうや膀胱の破裂」、「リンパ腫」、「腹腔内腫瘍」などです。
特に雌犬の場合は子宮蓄膿症に注意が必要です。交配の予定がない場合は早めに避妊手術を検討しましょう。
元気が無かったら病院へ!
犬のお腹、とくに肋骨の下の柔らかいお腹部分がぱーんと張るように大きくなっている場合は「腹水が溜まっている状態」を疑い、すぐに病院へ行きましょう。
微量なものであればともかく、腹水が貯まる原因は心臓や肝臓といった命に直結する臓器にトラブルがあることが多く、放置はできません。
特に、
- 元気消失
- 食欲喪失
- 嘔吐
- 呼吸が荒くなる
- 脱水
- 四肢のむくみ
このような状態がみられたら早急に治療が必要です。利尿剤を処方してもらったり外科的に腹水を抜いたりする処置が必要になることもあるでしょう。
緊急の状態を脱したら食事療法を行うこともあります。
腹水は一目で分かるものと思われがちですが、お腹が膨れない場合もありますし肥満と間違われてしまう場合もあります。腹水と思っていたら、肝臓腫大や腹腔内腫瘍の場合もあります。
膨れていなくても、犬の元気が無く嘔吐や呼吸の荒さなどが目立つ場合は病院へ相談をしましょう。
まとめ
長毛の子の場合、お腹が張っているかどうかは一目見ただけでは分からないかもしれません。短毛の場合も、太っただけと勘違いされることもあります。
しかし全身にむっちりお肉がついて大きくなる肥満と、肋骨の下の柔らかいお腹だけが膨れる腹水とは大きくなる部分に違いがあります。
(あれ?)と思うレベルであれば、何らかの病気が隠れているかもしれません。なるべく早めに動物病院を受診することをおすすめします。