ドマニシの遺跡で発見されたイヌ科動物の骨
南コーカサス地方の一国であるジョージア(旧グルジア)にドマニシという集落があります。この地には先史時代の人類や動物の骨などを多く出土している遺跡があり、古人類学や地球科学にとって重要な場所でもあります。
ドマニシで発見された人類は、ヒト科のホモ・エレクトゥスでドマニシ原人とも呼ばれています。ドマニシ遺跡は約180万年前にさかのぼり、アフリカ以外で最初の人類が生活していた証拠が発見されています。
ドマニシ原人はアフリカから移動してヨーロッパそして東南アジアへと分散して行ったことも分かっています。
このドマニシ遺跡から約180万年前の大型イヌ科動物の顎骨がドマニシ原人の遺骨と並んで発見されました。これらはイタリアのフィレンツェ大学の研究チームによって分析され、その結果が発表されました。
180万年前のハンティングドッグ
発見されたイヌ科動物の骨は、フィレンツェ大学の古脊椎動物学者によって分析され、東アジア原産のCanis (Xenocyon) lycaonoidesに属するものだと結論付けました。現在のリカオンにつながる系統ではないかと考えられるそうです。
このイヌ科動物ドマニシ犬は歯の磨耗が少ないことから若い成体であり、体重は約30kgと結論付けられました。ラブラドールレトリーバーやジャーマンシェパードくらいの大きさですね。
歯の特徴は第三小臼歯が雑食動物よりも小さく、裂肉歯が大きく尖っていることから、肉食性が非常に高く、少なくとも食事の70%は他の脊椎動物の肉で構成されていたと特定しています。
研究チームはまた、ドマニシ犬はアフリカのハンティングドッグの祖先である可能性を指摘しています。ハンティングドッグというのは現代の「猟犬」という意味ではなく、オオカミのように群れで狩りをする生き物だったということです。
発見された個体の体重は約30kgだったと考えられますが、それだけの身体を維持するには大型の脊椎動物を狩る必要があり、そのためには仲間と協力し合うことが必要だったと思われるからです。
また他の場所で発見されたドマニシ犬と同じ種類のイヌ科動物の骨では、歯の状態が非常に悪くなっているにも関わらず、それ以降も生存していたと確認できるものがありました。これは群れの仲間が食べるものを分け与えていたことを示しており、社会性の高い生き物であったことが伺えます。
面白いことに、ドマニシ原人においても歯の悪くなった老人が柔らかい食べ物を分け与えられていたことが分かっているそうです。180万年前という前期更新世において、このように社会性が高く利他的な行動をすると証明された哺乳類はこの2種だけなのだそうです。
ドマニシ原人とドマニシ犬は一緒に住んで協力し合っていたのか?
ドマニシ原人とドマニシ犬の骨が並んで発見されたことから「ドマニシ犬を飼って一緒に暮らしていたのか?」と考えそうになりますが、180万年前のヒト族ではまだ埋葬という行動はなかったと考えられます。この時代にヒト族とイヌ科動物が協力し合って生活していたという証拠は何もありません。
犬の家畜化は約2万年〜4万年前に始まったと考えられる証拠は発見されており、このドマニシ犬の時代よりもずっと後のことになります。
しかしドマニシ原人とドマニシ犬には興味深い共通点があります。ドマニシ原人はアフリカからヨーロッパを通ってアジアへと分散して行ったのは前述の通りです。
ドマニシ犬もほぼ同じルートを通って分散しているのですが反対側から進んでいます。ドマニシ犬は東アジア原産でアジアとヨーロッパの交差点であるドマニシを経てアフリカへと分散して行きました。
ドマニシ犬の生態や移動経路は、今後のイヌの進化の研究にとって重要な手がかりとなるようです。
まとめ
ジョージア国のドマニシ遺跡から発掘された180万年前の大型イヌ科動物について、古脊椎動物学者が分析した結果をご紹介しました。
犬が家畜化されるよりも176万年以上も前のことですが、ヒト族とイヌ科動物が意外と近い距離で暮らしていたり、現代のオオカミや犬につながるような社会性を持っていたというのはとても興味深いですね。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-021-92818-4