増えつつある牧羊ドローン
犬はさまざまな分野で人間を助けて働いていますが、中でもその歴史が古いもののひとつに家畜をハーディングする牧畜犬があります。
近年では羊を飼育する農家が牧羊犬の代わりにドローンを使って羊の群れを管理している例が増えているそうです。しかしドローンによって追われた場合のストレスなど羊の福祉に関する研究は今のところ無かったのだそうです。
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学キャンベラの研究者が、ドローンと羊の相互作用を調査し、その結果を発表しました。
そもそも牧羊犬は羊にとってストレスなのだろうか?
ドローンが羊の管理をすることについて調査をする場合、従来の方法である牧羊犬がハーディングをした場合の羊への影響と比較する必要があります。
実は、牧羊犬によるハーディングが羊に及ぼす影響については、すでに過去に多くの研究が発表されています。犬は雑食の動物とは言え、羊のような草食動物にとっては肉食動物と認識されるものです。
つまり捕食者が常に自分たちの監視をしているという状態ですので、牧羊犬の存在は羊にとってストレスになることが分かっています。
2015年にスウェーデン農業科学大学が発表した研究結果では、羊と牧羊犬が関わり合った時の羊の心拍数を測定してストレスレベルを分析しています。
その研究では、ハーディングのさまざまな段階で、犬が近づくと羊たちの心拍数が上がったことが確認されました。またストレスホルモンである唾液中のコルチゾール値も上昇していたそうです。興味深いのは、心拍数の上昇と羊が犬と馴染みがあるかどうかは関連していなかったそうです。
馴染みのない犬であっても、視線が穏やかで当たりの柔らかい犬ではストレスレベルが低く、毎日放牧の世話をしている馴染みの犬でも、視線がきつく吠え行動の多い犬や若い犬では羊のストレスレベルが高くなっていました。
ストレスレベルが高くなった羊は、排尿や排便の回数が増え、地面を踏みつけたり攻撃的になったりします。これは明らかに羊の福祉を低下させていることを示します。
この研究は、より人道的なハーディングのためにはどのような犬を選択してどのように訓練することが、犬と羊双方の安全と福祉のために有効かを調査するためのものだったのですが、犬の存在が羊にとってストレスであることは、大前提として認識しておく必要があります。
牧羊ドローンを使った場合の羊のストレスは?
ニューサウスウェールズ大学がこの度発表した研究でも、ドローンによってハーディングされる12頭の羊に心拍数モニターを装着して心拍数の変化が測定されました。
羊の安静時の心拍数は約80/分ですが、ハーディングで追われて運動した場合、約160/分前後まで上昇します。しかし牧羊犬が吠えたりした場合には心拍数は最大260/分まで急上昇することもあります。
ドローンでハーディングをした場合、羊の心拍数は平均164/分と運動時の数値として安定していました。牧羊ドローンは羊へのストレスが少ないことがわかります。またドローンの高さは10メートル、速さは時速25kmが羊のストレスコントロールに理想的であることも分かりました。
面白いことに、飛行するドローンに音楽、サイレン、犬の声、無音などの聴覚刺激を付けた場合、犬の声が最も効率よく羊が動いたのだそうです。研究者は今後の課題として、特定の音を発するのではなく、理想的な周波数を探ることに焦点を移しているそうです。
このように、ドローンを使った羊のハーディングは伝統的な牧羊犬よりも羊の福祉を守るのに最適であることが分かりました。
まとめ
牧羊ドローンを使って羊のハーディングを行った場合、牧羊犬によるハーディングよりも羊の心拍数が安定しストレスレベルが低いことが分かったという研究結果をご紹介しました。
牧羊犬といえば働く犬界のエリートとも言える存在なので、この結果にショックを感じる方もいるかもしれません。
しかし科学が動物の生態を明らかにし、技術が動物の生活を楽にすることができるなら、私たちを助けてくれる犬や家畜もその恩恵を受けるべきです。働く犬との付き合い方にも新しい視点が必要な時期に来ていることを感じます。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-021-87453-y
https://stud.epsilon.slu.se/9051/1/andersson_i_160517.pdf