児童の音読に犬が立ち会うことの効果を心理生理学的に検証した結果とは?

児童の音読に犬が立ち会うことの効果を心理生理学的に検証した結果とは?

子どもが本を読む際に犬が一緒にいたり、犬に読んで聞かせると、子どもの音読に良い影響をもたらすということが言われています。今回、音読が苦手な子どもにおいて、音読をする際に犬が一緒にいる効果について調べたウィーンからの研究結果をご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

子どもが音読する際に、犬が一緒にいることの効果の検証

本を広げた女の子とゴールデンレトリーバー

本を読むことは学校生活や社会生活において成功するためには重要なスキルであり、子どもたちの読む力を育てるために、世界の一部の地域では、子どもが本を読む際に犬が一緒にいたり、または犬に読んで聞かせる活動が行われています。

子どもが本を読む際に犬が一緒にいると、犬が子どもに身体的、精神的に、また子どもの感情面や社会スキルに良い影響を与えることがこれまでの研究でも示されています。しかし、子どもが本を読む際に犬が一緒にいることの効果について、これまでの研究の多くでは、本を読むスキルに問題がない子どもについて行われていたり、そもそも研究対象となった子どもの読むスキルを測定しないで行われたものが多かったそうです。そこで今回、オーストリアのウィーン大学の行動生物学の研究チームは、音読スキルが平均未満のウィーンの小学校3年生(9~10歳)36人の児童を対象にして、音読セッションに犬が立ち会った時とそうでない時の児童の生理学的な反応の違いや音読に与える影響などを検証しました。

本を音読するのが苦手な子どもにとっては、授業中に同級生や教師の前で本を読むことはプレッシャーと緊張が付いて回ることは想像に難くありません。

これまでの研究から、犬が子どもの音読に立ち会うことの効果は「犬がいることでリラックスして不安感が減少するからではないか」と考えられ、今回の研究においても「犬がいることによって、生理学的にも児童がリラックスしているデータが得られ、児童はよりうまく音読できるのではないか」という仮説の基に行われました。

犬有りと犬無しで音読セッション

本を読む男の子とビーグル

この研究に参加したのはウィーン市内の3つの学校から参加した男子17人、女子19人の合計36人の小学3年生でした。参加者の全員が、音読のスキルが平均的なスコアを下回っていた子たちで、犬を怖がる児童はいませんでした。

参加者はそれぞれ、1週間おきに2回の音読セッションを行いました。どちらか1回は子どもと様々な指示を出すための研究スタッフ1名のみで、もう1回は同じ研究スタッフの他に犬1頭とハンドラーが一緒にいました。

犬は学校訪問プログラムに参加する犬として認定されていて、学校に訪問して子どもと交流する経験が既にある4頭の犬(プードル、オーストラリアン・シェパード、スタッフォードシャー・ブルテリア、スタッフォードシャー・ブルテリアとジャーマン・シェパードのミックス)が参加しました。

音読をする際の子どもの状態を心理生理学的に評価するために、子どもの心拍数と心拍変動(心拍1泊ごとの長さの変化)がセッション中継続的に測定され、コルチゾール値を測定するためにセッション中複数回、唾液が採取されました。

セッション中の子どもたちの様子は録画され、咳払い、足をブラブラさせる、物をいじるなどの緊張状態を示す行動や、体のどこかを掻いたり爪をかんだり、自分の服をいじったりするなどのセルフマニピュレーションに関する行動について、また、おしゃべりの頻度などが記録分析されました(セルフマニピュレーション=自分で自分をコントロールするスキル)。

2回の音読セッションはいずれも、ELFEとRRという2つのテストが行われました。ELFEは、ドイツ語圏で小学生の単語の理解力、文章とストーリーの理解力を測るために用いられているテストです。RR(Repeated Reading)は、短い文章を2分間で出来るだけ早く出来るだけ正確に読んでもらうテストです。児童は、1回目に読み間違えた単語を何回か練習してから2回目を読みます。1回目のセッションと2回目のセッションでは、違う文章が用いられました。

犬がいることで子どもにどんな影響があったのか?

開いた本で顔を隠している女の子

まず、テストの結果については、ELFEでは、犬がいてもいなくても結果に差はありませんでした。

1回目のセッションで犬有りだった場合にのみ、1回読んで読み間違えた単語を練習した後に読んだ2回目で、より上手に読むことができました。同じ犬有りでも、それが2回目のセッションだった場合にはRRでの2回目の音読はそれほどには上手にはなりませんでした。

これは新しいテスト方法という初めての経験の際に、犬がいたことが何らかの良い影響を与えたと考えられます。

犬有りが2回目のセッションだった場合には、すでにRRが初めての経験ではなくなっていたため、その影響が小さかった可能性があります。

心理生理学的なデータでは、心拍数は1回目のセッションで犬有りだった児童において、1回目のセッションと2回目のセッションの間で心拍数の違いが大きい傾向が見られたものの、平均すると犬有りのセッションを行った児童と犬無しのセッションを行った児童での明らかな差は見られませんでした。心拍変動についてはどの比較においても差は見られませんでした。 コルチゾールについては、2回目のセッションにおいてだけ、犬無しのセッションを行った児童で犬有りのセッションを行った児童よりコルチゾールの分泌量が少ないと考えられる結果が得られました。同じ児童について犬有りのセッションと犬無しのセッションでコルチゾール値を比較した場合、明らかな差は見られませんでした。コルチゾールはストレスがかかった時にも分泌量が増えますが、興奮状態になった時にも多く分泌されます。今回のコルチゾール値の結果から研究者らは、犬がいることで子どものモチベーションが上がり、欲求行動の活性化やより覚醒度合いが高まったためと考えています。これは、実験前に研究者がたてていた仮説とは逆の結果になりますが、同様の結果を示す研究は過去にもあるそうです。

子どもの行動については、1回目のセッションでは、犬有りの場合に緊張状態を示す行動は減少していて、セルフマニピュレーションに関連する行動は犬有りと犬無しで差が見られなかったそうです。2回目のセッションでは逆に、犬有りのセッションではセルフマニピュレーションに関連する行動が増えていて、緊張状態を示す行動については犬有りと犬無しでの差が見られなかったそうです。

これらの結果から研究者らは、犬の存在は子どもの欲求行動を活性化し、音読スキルの向上につながる子どもの動機付けや集中力の向上に良い影響を与えたとしています。今までの研究においては、犬が一緒にいると子どもの心を落ち着かせる効果があり、そのリラックス効果によって子どもの音読に良い影響があるとする結果が多く示されていましたが、今回の結果はその逆で、犬の存在が子どもの覚醒度合いを高め、子どもの意欲が高まることによって音読スキルの向上に良い影響を与える可能性があることが示されました。研究対象となった人数が少ないことやセッションの回数が少ないことなど、今回の研究にも改善の余地はあるので、今後の更なる研究が期待されます。

音読が苦手な子どもの場合、リラックスすることが上手に音読するために重要なことだと考えられていますが、逆に興奮、覚醒という反対の状態が音読スキルを向上させる可能性があるという結果が出たことは興味深いですね。

この研究では、音読のスキルについては、明らかな変化が認められませんでした。犬との音読セッションに関する過去の報告の多くは、犬の存在と音読スキルの向上に関連があることを示しているそうです。この違いについて研究者らは、音読スキルが平均未満の子どもにおいて犬との音読セッションが効果を現すためには、繰り返しセッションを行うことが重要なのではないかと述べています。

まとめ

寄り添って床に寝そべる犬と男の子

音読の苦手な子どもが犬との音読セッションを行った時、犬の存在が子どもを興奮〜覚醒させ、子どもの意欲向上につながる可能性が示されたこと、ただし1週間おきの2回だけのセッションでは明らかな音読スキルの向上は見られなかったという研究結果をご紹介しました。

小学生にとって犬の存在は、気持ちを落ち着けるよりも興奮、やる気につながるというのはとても納得がいく結果だと思います。犬との効果的なセッションで、平均的な音読スキルを持つ子どもだけではなく、音読が苦手な子どもにも良い結果が生み出せるよう、今後の研究にさらに期待したいと思います。

《紹介した論文》
Schretzmayer, L., Kotrschal, K., & Beetz, A. (2017). Minor Immediate Effects of a Dog on Children's Reading Performance and Physiology. Frontiers in veterinary science, 4, 90.
https://doi.org/10.3389/fvets.2017.00090

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