犬と関わりあう職業の人の咬傷事故防止のための研究

犬と関わりあう職業の人の咬傷事故防止のための研究

獣医師や愛護センター職員など、犬と接することが大きな部分を占める職業があります。これらの職業の人々が犬に咬まれることを防止するには何がポイントになるかをリサーチした結果が報告されました。

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業務上の犬の咬傷事故を防ぐために

不機嫌な犬と獣医師

犬が人間を咬んでしまうことは、公衆衛生上の大きなリスクのひとつです。

犬の咬傷事故を防止するためのリサーチは子どもに関するものが多いのですが、獣医師やペットトリマー、郵便や宅配業者の配達人、動物保護施設の職員など、職業上犬と関わることが避けられない人々のための事故防止策もまた重要です。

イギリスでも、病院で治療を受ける必要のある犬の咬傷事故の件数が近年になって増えており、なかでも業務中、犬によって怪我をした人への対策が課題となっています。

この度、イギリスのリバプール大学の公衆衛生の研究者が上記の課題についてのリサーチを行い、その結果を発表しました。その内容は職業ではなく犬と接する人にとっても参考になる点が多いものです。

保護施設職員と配送業者従業員へのリサーチ

保護施設の犬舎の犬

様々な国で職業上の犬の咬傷事故に関する調査が行われており、郵便局員など私有地への立ち入りが必要な職業の人、獣医師や施設職員など犬と接することが必要な職業の人の50〜70%の人が犬に咬まれたことがあると報告されています。

もちろん多くの国が何らかの策を講じているのですが、危険とされる犬種の飼育禁止、飼い主への罰則などは実施している国は多いものの、重傷の咬傷事故の減少にはつながっていません。

リバプール大学の研究者は、3つの動物保護施設、2つの宅配業者の従業員を対象にしてインタビュー、ディスカッション、関連文書の分析、研究対象者の日常業務の観察などを通してリサーチを実施しました。

研究に参加したのは男性20人と女性35人の計55人でした。咬傷事故の経験では、咬まれたことがない人から複数回の咬傷、皮膚に傷がつかなかったものから指の切断まで多岐に渡りました。

保護施設でのリスクと課題

人の腕に歯を向けている犬

犬に限らず業務上の事故の防止策の最初の重要な部分は「危険因子やリスクを明確にすること」です。何が危険なのかが分かっていないと、何に気をつければいいのかも分からないからです。

犬の保護施設では「何が危険であるか」が明確に定義されていませんでした。職員は犬のボディランゲージに注意することが重要だと認識しており、リサーチに参加した全員が犬のサインについて観察すべき点としてほぼ同じ行動を挙げていました。

しかし、それらのボディランゲージの解釈はそれぞれの主観的な判断に任されていました。

また個々の犬の危険度の評価は、特別な訓練を受けた少数のスタッフが判断していました。しかし評価が決定する以前に犬と接する必要がある時、施設滞在中に評価が変化した場合などは、犬の行動への観察に誤差が生じる可能性があります。

このように保護施設では、犬の行動が咬傷事故のリスクとして認識されており、行動を観察することに焦点が当てられていました。

しかし「何が危険か」が明確に共有されておらず、行動観察の判断に誤差や主観が入り込むことが課題と見なされました。

宅配業者と犬のリスクと課題

門の向こうで吠える犬

宅配業の会社では従業員に対して「犬の危険」を明示していました。いくつかの段階や具体例が挙げられていますが、要約すると「犬が存在すること」をリスクとして認識するよう指導しています。

犬が目に入る場合はもちろん、犬の声が聞こえるかどうか、犬の気配がなくても門戸をガタガタさせてみるなど、犬がいるかどうかに注意を払うよう言われています。

しかし、門戸をガタガタさせても反応しなかったのに敷地内に入ると犬が走ってきた場合や、犬が脱走してきた場合に事故が起きた例がありました。また最終的には配達員が個人の主観で犬の危険度を判断しなくてはならないという面もあります。

このように保護施設でも宅配業者でも、組織や会社が定めた作業手順ではカバーできない事態が起きること、そのような事態の際に個人の主観的な判断が適切でない場合に事故が起きる可能性がありました。

研究者は「個人の判断が適切でなかった場合」に職員や従業員に罰則を与えないことがとても重要だと述べています。行動に対して罰則や非難がある場合、事故には至らなかったが危機一髪だったというニアミスや軽微な事故が報告されにくくなるからです。

建設や航空業界ではニアミスの報告が少ないほど、重大な事件が発生する率が高くなるのだそうです。犬の咬傷事故についても同じことが言えます。被害者を非難せず、ニアミスの経験を次回の防止策の活かす必要があります。

まとめ

郵便配達の男性と犬と女性

業務上で犬と関わる必要のある人のうち、犬の保護施設と宅配業者で働く人を対象にした咬傷事故防止に関するリサーチ結果をご紹介しました。

このリサーチでは、組織や会社が危険の基準や作業手順を設定することはリスクの軽減にはなるが安全性を保証することはできないことを示しています。

安全性を高める効果的な方法の1つとして、組織と従業員、従業員同士の信頼関係を構築して、失敗を非難せず経験や情報を共有しやすい環境を作ることが大切だとしています。

これは学校教育や、家族間のコミュニケーションにも共通していると考えられます。特に家庭では犬の事故防止というと、犬への訓練のみに意識が向けられることが少なくありませんが、このような人間同士のコミュニケーションも見落としてはいけない部分です。

《参考URL》
https://www.mdpi.com/1660-4601/18/14/7377/htm

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