ヨーロッパの感染症会議で発表された生肉フードのリスク
薬剤耐性菌(抗生物質耐性菌とも言われる)は世界保健機構(WHO)が「公衆衛生に対する世界的脅威」と呼んでいるほど危険なものです。その名の通り、抗生物質に対して耐性を持ってしまった菌のことを指します。
多くの致命的な病気の治療の切り札とも言える抗生物質が効かない菌が増え蔓延することは、本来は軽症で済む感染症や怪我が致命的になるリスクを意味します。
2021年7月にオンライン開催された欧州臨床微生物学および感染症会議において、ポルトガルのポルト大学薬学部の研究者が「犬に生の肉を与える傾向は抗生物質耐性菌の蔓延を助長している可能性がある」と警告を発しました。
さまざまな種類の生のドッグフードを調査分析した結果
ポルト大学の研究者チームは、一般に市販されている25ブランド55種類のドッグフードのサンプルを分析。55種のうち14種が冷凍の生肉フードでした。
分析の結果、30のサンプル(54%)に腸球菌が含まれていました。腸球菌は腸内の常在菌で、病原性は弱く通常は害のないものの、畜産で多用された抗生物質への耐性菌が問題視されています。
サンプルから検出された腸球菌のうち40%以上が一般的な8種類の抗生物質に耐性を持つものでした。さらに腸球菌の23%はリネゾリドという抗生物質に耐性を持つものでした。
リネゾリドは他の抗菌薬が無効な重度の感染症に最後の切り札として使用される薬剤です。リネゾリド耐性菌を含むフードを犬がそのまま食べることの危険性がわかります。
サンプルの生肉ドッグフードは14種類全てに、リネゾリドに耐性のある菌を含む多剤耐性の腸球菌が含まれていました。生ではないサンプルのうち多剤耐性菌を含んでいたのは3種類のみだったといいます。
検出された菌の遺伝子配列決定により、生肉ドッグフードに含まれる多剤耐性菌のいくつかは、イギリス、ドイツ、オランダの入院患者に見られるものと同じ種類だったことも明らかになりました。
生肉ドッグフードを与えるリスクをよく考える
研究者は上記のような分析結果から生肉ドッグフードについて、感染症の最後の手段であるリネゾリドに耐性のある細菌の供給源であると結論付けています。これらの細菌は人間に感染する可能性は十分にあります。
薬剤耐性菌の危険については、家畜への抗生物質の乱用や医療現場での検出がよく問題になります。この度の研究結果を受けて研究者は、生肉のペットフードが世界的に薬剤耐性菌を蔓延させているリスクが見過ごされていることを指摘しています。
愛犬に生肉を与えるリスクは、犬がお腹を下すかもしれないという単純なものだけではなく、深刻な感染症を引き起こす細菌を含んでいたり、その細菌を広めてしまう可能性という重大なものであることを知っておく必要があります。
生肉のペットフード に関しては、製造や管理について今後規制が厳しくなるなどの可能性はありますが、犬の飼い主はペットフードを扱った後やトイレの処理の後は、必ず石鹸と水で手洗いを徹底する必要があります。
まとめ
欧州感染症会議で発表された、生肉のドッグフードが薬剤耐性菌の供給源になっているという研究結果をご紹介しました。
生肉食は「野生のオオカミの食事に近く、犬が本来食べるべきもの」と紹介されることもありますが、犬とオオカミは別の生き物に進化して1万年以上が経っています。オオカミの食べるものが必ずしも犬に相応しいとは言えません。
今回ご紹介した深刻なリスクも含め、飼い犬に生肉を与えることをもう一度しっかりと考えてみる必要がありそうです。
《参考URL》
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2021-07/esoc-dfs070821.php
ユーザーのコメント
20代 男性 匿名
生肉を与える飼い主はいないと思いますが焼いてあろうとなかろうと肉は与えるべきではないでしょう