犬の老化
犬種や個体差がありますが、一般的に小型犬や中型犬は10歳、大型犬は7歳頃からシニア期だといわれています。
老化は徐々に進行するため、毎日愛犬と接しておられる飼い主さんには、かえって気付きづらいのが特徴です。
数年前に、動物の認知症にも人のアルツハイマー病と似ている点がみつかりました。
将来的にはアルツハイマー病の根治治療も夢ではないといわれていますので、犬の認知症も根治治療法がみつかるかもしれません。
しかし今は、早期発見して進行を遅らせることしかできません。
そのためには、「飼い主さんが行動の変化を観察すること」と「定期的な健康診断による体の変化の確認」の両面からのアプローチが大切になります。
今回は、飼い主さんが行動の変化を観察する際のポイントと、認知症になってしまった愛犬を守るための対処法を中心に解説します。
犬の行動の変化
犬の認知症の症状を、カテゴリー別にご紹介します。
シニア期に差し掛かった愛犬のチェック項目としてご利用ください。
愛犬の行動に変化の兆しが見られたら、かかりつけの動物病院と相談をしながら、その時々に応じた対策を講じましょう。
<見当識障害>
- 方向やドアの開く側が分からなくなる
- 家具などの隙間に入り込み出られなくなる
- 床や壁をじっとみている
- 視覚や聴覚の刺激に対する反応が鈍くまたは鋭くなる
<社会的相互反応の変化>
- 飼い主や同居動物に対する反応が鈍くまたは攻撃的になる
- 飼い主に過度に依存するようになる
- 常に接触したがるようになる
<睡眠覚醒の変化>
- 昼夜が逆転する
- 夜鳴きする
<家庭でのしつけの混乱>
- トイレの粗相が増える
- 寝床や家を汚すようになる
<活動性の変化>
- 徘徊する
- 食欲が増加する
- 同じことを繰り返すようになる
- 食べ物に関心がなくなったり遊びや活動が減少したりする
<不安や恐怖の増加>
- 飼い主がいないと落ち着かないようになる
- 新しい場所や物、人を怖がるようになる
<学習能力や記憶の低下>
- コマンド、指示に対する反応が鈍くなる
- 新しいことが覚えられなくなる
なお、下記は認知症によく似た症状が出る病気の例です。
上記のチェックで行動の変化に気付いても、認知症だと勝手に自己判断せず、動物病院に相談してください。
- 甲状腺機能低下症
- 糖尿病
- 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
- 副腎皮質機能低下症(アジソン病)
- てんかん
- 体の痛み
老化した愛犬を守るための対策
1.環境改善
家具の裏や隙間に挟まって出られなくなる場合は、まず隙間を塞ぎましょう。
今までは認識できていたドアなどが分からない、筋力の低下で転倒しやすいといった場合の対策としては、家具や柱、出っ張り等に保護剤を取り付けます。
知らぬ間に危険な場所に出ないよう、要所にゲートを設置すると安心です。
一晩中徘徊して飼い主さんが休めないような場合は、円形のサークルや子供用のビニールプールなどを利用し、安全に歩ける場所を確保すると良いです。
トイレの粗相対策としては、まずはトイレの設置数を増やす、トイレの周辺の床にペットシーツを敷き詰める等で対応しましょう。
認知症は秋から冬にかけての発現が目立つといわれているので、室温の適切な管理も大切です。
2.生活改善
愛犬の生活が昼夜逆転して一晩中夜鳴きをするというような場合は、なるべく昼間は寝かさず、夜に眠らせるように誘導しましょう。
特に午前中の日光浴は体内時計をリセットさせる効果があるといわれています。
散歩ができなくなっても、昼間カートに入れて散歩をするだけでも、刺激による脳の活性化と日光浴ができるのでおすすめです。
3.運動
筋力の維持と脳の活性化のために、できるだけ散歩や軽い運動を続けましょう。無理をさせる必要はありません。
心配な場合は、愛犬の状態に見合った運動方法を動物病院で相談すると良いでしょう。
4.マッサージ
マッサージは血行を促し、血流を改善するので脳も活性化されます。
また、飼い主さんとの触れ合いでオキシトシンが分泌され、不安の軽減も期待できます。
声をかけながらの触れ合いやマッサージの機会を増やしましょう。
5.食事
愛犬の状態に合わせて食べやすい食事を与えてください。また、食欲が増えてしきりに食べたがる場合は、1回の食事量を減らして回数を増やしましょう。
食事にビタミンE、C、カロテノイドなどの抗酸化作用のある食品や、DHA、EPAが豊富な食品やサプリメントなどをうまく利用すると、細胞の修復や再生を阻害する酸化ストレスを軽減させ、脳機能低下の抑制にも役立ちます。
6.投薬治療
一人で抱え込んでしまうと、飼い主さんが心身共に疲弊してしまうかもしれません。
適宜動物病院で相談し、必要な場合は投薬による症状の緩和なども図りましょう。
まとめ
老犬を守るための方法として挙げた適度な運動や脳への刺激などは、予防としても役立ちます。
そして、行動変化の観察と共に定期的な健康診断も欠かせません。シニア期に入ったら、年に最低2回以上の健康診断が理想です。
ただし、最終的には介護が必要になるという覚悟をした上で、環境改善の準備と心構えもしておきましょう。
認知症は、記憶がなくなってしまったわけではなく、残っている記憶を思い出すための仕組みに障害が出ているだけだという説もあります。
できるだけコミュニケーションを取ることで、愛犬に良い刺激を与えながら不安感を取り去ってあげてください。