1.分離不安症
犬の精神病の中で比較的身近なものが、分離不安症だと思います。
分離不安症は、その名が示す通り、飼い主さんと離れることに強い不安を感じる疾患で、その影響でさまざまなトラブルが起きてしまうものです。
留守番をした経験がないにもかかわらず突然長時間の留守番をさせられた犬や、飼い主さんがいない間にトラウマとなるような怖い経験をした犬などに見られることがあります。
また、飼い主さんが家にいる時にずっと抱っこしていたりベタベタと甘やかして過ごしすぎると、離れた時にその落差にショックを受けて発症することもあるのです。
症状にはさまざまなものがあり、不安感からパニックになり家中のものを破壊してしまったり、あらゆる場所で排泄をしてしまったり、声が枯れるまで吠え続けたりといった行動が見られたりします。
また、気持ちを紛らわせるために自分の手足やしっぽを舐め続けて出血してしまうということもあります。
さらに、下痢や嘔吐、震え、呼吸困難といった身体的トラブルを引き起こすこともあります。
飼い主さんと離れることに不安を感じさせないようにするためには、本当に短い時間から留守番の練習をさせることが大切です。
はじめは家の中の別部屋で過ごすということからスタートし、外に出るのも30秒や1分からはじめましょう。
犬が不安になる前に帰るということをくり返すことで「飼い主さんは出て行っても必ず帰ってくる」ということをきちんと認識させるのです。そうすることで、留守番中も安心感を持って過ごすことができるようになります。
2.常同行動(強迫性障害)
常同行動は、同じ行動をひたすらくり返す疾患で、ストレスが原因で引き起こされると言われています。
動物園などで同じ場所を延々と往復して歩いていたり、ぐるぐると回ったりしている動物を見たこともあると思いますが、それは退屈や人目にさらされることなどに強いストレスを感じたことで起こる常同行動だと考えられています。
犬の場合もストレスを感じている時に、自分の手足の先を舐め続けたり、尻尾をグルグルと追いかけ回したりすることがあります。
多少の時間であれば、単なる暇つぶしとも考えられますが、血がにじんだり毛が抜けるほど舐めたり、日常生活に影響が出るほど続いたりする場合は適切な対処が必要です。
ストレスの原因がわかっている場合はその解消を図り、それでも改善が見られない場合は動物病院で相談するようにしましょう。
3.うつ病
近年、人間のうつ病患者が増えているとされていますが、実は犬もうつ病を発症することがあると言われています。
言葉で心身の状態を伝えられないため、正確な診断は非常にむずかしいとされていますが、主な原因はストレスで、症状は無気力や食欲低下、過度な抜け毛などさまざまなものが考えられます。
また、うつ病の症状として、上記で説明した常同行動が見られることもあります。
4.認知症
犬の平均寿命が伸びたことから注目されるようになったことのひとつが、犬の認知症です。
加齢に伴って身体的な機能が低下していきますが、脳にも変化が見られさまざまな症状が引き起こされます。
具体的な症状としては、睡眠のサイクルが徐々にずれてしまい寝ている時間が長くなるだけでなく昼夜逆転してしまったり、不安症を併発して夜鳴きをするようになったりします。
また、見当識障害が起こり、飼い主さんが認識できない、自分のいる場所がわからない、方向感覚が極端に鈍ったり後ろに下がることができなくなったりすることも多くあります。
老犬期に入るのは7歳頃からと言われていますが、認知症の症状が見られるようになるのは12歳を過ぎてからが多いと言われています。
また、すべての犬にその症状が見られるわけではなく3割前後で、特に柴犬など日本犬の認知症発症率が高いとされています。
認知症を完全に予防することはむずかしいですが、年齢を重ねても適度に運動をして外部からの刺激を受けることや、日差しを浴びて一日の中の時間感覚を持たせることは大切だと言われています。
老犬になると、体力を心配して散歩に行かなくなる人もいますが、自然を感じられず刺激の少ない生活は認知症を発症しやすいとも言われているため、注意しましょう。
まとめ
犬の精神病と言うと、非常にめずらしいものと思われがちですが、決してそのようなことはありません。
精神病の原因となるのがストレスや運動不足、生活環境の変化などどの家庭でも起こりうることばかりです。状況の変化の受け止め方は犬の性格により変わります。全く平気な犬もいれば、精神的にパニックを起こしてしまい精神病をひき超すことも十分に考えられるのです。
また、精神病の診断はとてもむずかしく、診断されても根本的に治療する特効薬があるわけではありません。内服薬などでは症状を抑制するような治療が中心です。そのため、原因となっている状況の改善を図るとともに、身体的なトラブルについては獣医師の協力を得て対処療法を行う必要があります。
解決までにはやや時間がかかる場合もありますが、まずは飼い主さんが焦らずに気長に対応するように心がけましょう。そして、いつもと異なる様子に気づいたら些細なことでも早めに対処することが大切です。