犬のアトピー性皮膚炎の研究
愛犬のアトピー性皮膚炎に悩んでいる飼い主さんは世界中にたくさんいます。アトピー性皮膚炎は犬の皮膚病としてはとても一般的なものにも関わらず、その原因は完全には解明されていません。
この度、ドイツのユストゥス・リービッヒ大学ギーセンの獣医学と微生物学の研究者チームが、ジャーマンシェパードの皮膚の微生物叢(細菌)を分析してその結果を発表しました。
アトピー性皮膚炎の原因は単独ではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合っていると考えられるそうですが、中でも皮膚上でコロニーを形成している微生物(細菌)は重要な役割を果たしている可能性があります。
ジャーマンシェパードの皮膚細菌を比較
研究の対象となったのは4歳以上のジャーマンシェパード24頭です。アトピー性皮膚炎ではない犬12頭と、アトピー性皮膚炎を持っている犬12頭(ただし他の病気は無い)でした。全ての犬は一般の家庭で飼育されている家庭犬です。
全ての犬は過去6ヵ月以内に抗生物質、免疫調整薬、抗炎症薬を服用しておらず、サンプリングの7日前からシャンプーと耳クリーナーの使用が禁止されていました。
また全ての飼い主は、家庭での飼育状態、他のペットがいるかどうか、栄養補助食品の使用、入浴の頻度、シャンプーの種類、健康状態などに関する質問票に記入しました。
皮膚細菌のサンプルは、腋窩(前足の付け根)、前足の指の間、鼠蹊部(後脚の付け根)外耳道に綿棒を回転させて採取されました。採取されたサンプルは、細菌の遺伝子配列データによって分類され、それぞれの個体の細菌の分布や種類が比較されました。
非アトピーの犬とアトピー性皮膚炎の犬では皮膚細菌に違いがあった
非アトピーの犬では、体の部位による細菌の種類や分布のパターンに明らかな違いは見られませんでした。体のどの部分にも、同じような細菌がほぼ同じパターンで分布していたということです。
一方、アトピー性皮膚炎がある犬では腋窩から採取したサンプルだけが、非アトピーの犬のサンプルと比べて細菌の種類の多様性が大幅に低くなっていました。
また非アトピーの犬では放線菌門の細菌が最も多く、アトピー性皮膚炎の犬ではプロテオバクテリア門の細菌が最も多いという違いがありました。
この調査では、サンプル数が少ないこと、非アトピーの犬の細菌分布が犬種特有である可能性、犬たちの居住地が同じ地方であることなどから、調査結果は限定的であると研究者は述べ、今後さらに他の犬種、都市部と農村部など様々な条件でサンプル数を増やした研究を続けて行くとのことです。
しかしアトピー性皮膚炎の犬は、皮膚の細菌の種類が少ないこと、体の部位によって細菌の分布が違うという2点は大きな発見で、今後の研究が期待されます。
まとめ
ジャーマンシェパードを対象にした皮膚の細菌の分布を分析する調査で、アトピー性皮膚炎を患っている犬は、非アトピーの犬に比べて皮膚細菌の多様性が低いことが分かったという結果をご紹介しました。
生き物と共生する細菌と言えば腸内細菌がよく知られていますが、皮膚に住む細菌もまた生き物の健康にとって重要な存在であることを、この調査結果が改めて示しています。
なかなか良くならない痒みは犬にとっても飼い主にとっても辛いものです。研究が進んで安全で効果的な治療が開発されることが待たれます。
《参考URL》
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0250695