犬が異物を食べてしまうことと行動異常についての関連【研究結果】

犬が異物を食べてしまうことと行動異常についての関連【研究結果】

犬が食べ物ではないものを食べてしまう行動(異食症)について、行動学的な観点から異食歴のない犬と比較したフランスでの研究結果が発表されました。その内容をご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

食べ物ではないものを食べる「異食症」

ねじ釘を飲み込んだ犬のレントゲン写真

人間の摂食障害の1つで、食べ物ではないものを強迫的に食べてしまう異食症という病気があります。強迫スペクトラム障害や不安障害、衝動制御障害などが異食症の原因となっている可能性があるそうでますが、まだ未知の部分が多く、治療法の確立のためにも発症のメカニズムなどの解明が待たれています。

異食症は人間だけでなく犬にも見られます。遊んでいる時にアクシデントで何かを飲み込んだり、食べ物と間違えて食べてしまったり、子犬がやたらに色々なものを口にしてしまうことではなく、明らかに食べ物ではないもの(布製品やプラスチック製品、石など)を食べてしまう行動です。

犬が異物を食べてしまうことは、消化管がどこかで詰まる原因として常に上位に来るもので、犬の生命を脅かすだけではなく、飼い主にとっても色々な物が破壊されることになる問題行動であり、犬が倫理的に扱われなくなる原因や犬と飼い主の関係を悪くしてしまう原因にもなり、犬と人間の両方にとって大きな問題となります。しかし犬の異食症についての研究もこれまであまり行われておらず、異食症の原因は見当たらなかったとする論文や、栄養不良や寄生虫、膵臓や肝臓の疾患などが原因かもしれないとする論文、また犬にもあると言われているADHD(注意欠陥多動性障害)や不安障害、強迫性障害などが原因かもしれないとする論文などが少数あるだけでした。

この度、フランスの臨床獣医師たちによって、犬の異食症が行動異常、特に過活動性や衝動性、強迫性行動と関連しているかについてリサーチが行われました。

詳細な臨床記録と飼い主へのアンケート結果を分析

犬の手術の準備をする獣医師

研究対象には42頭の異食症と考えられる犬と、42頭の異物を食べてしまったことがない犬を選び、飼い主に自分の犬の行動についての2つのアンケートに答えてもらい、異食症の犬とそうではない犬について比較分析しました。

異食症と考えられる犬は2015年から2018年の間に、異物を取り除く消化器の手術を受けた犬のうち、多くの検査の結果、他に病気がないことが確認された犬が対象となりました。また、子犬は食べ物ではない物を飲み込んでしまうことが成犬よりも多いため、生後6ヶ月未満の犬は対象外となりました。

異物を食べてしまったことがない犬については、上記で異食症を持つとしてリストアップされた犬と、犬種や性別、年齢、不妊手術の有無などの条件がほぼ同じになるよう調整された42匹が比較対象として選ばれました。

異食症と考えられる犬の飼い主には、食欲不振、妊娠、腹痛などがなかったかどうか、普段の行動についての質問に答えてもらい、犬の攻撃性、不安、愛着などについて分析されました。

また、異食症の犬については、異物をただ食べるだけなのか、食べる前に異物を引き裂いたり破壊したりする行動があるかどうかも飼い主に答えてもらいました。

食べ物ではないものを食べることと行動学的な異常を関連づける重要性

床を破壊したシュナウザー

その結果、異物を食べて手術を受けた犬のうち、食欲不振や腹痛などの消化器症状があったと考えられたケースは12%とごく少数でした。残り88%の異食症がある犬では、異食症の原因だと断定はできないものの、過活動性や衝動的な行動、不安障害や飼い主への愛着の問題など、何かしらの対策をとるべき行動学的な問題があることが示されました。

また、異食症と考えられる犬のうちでも、物を破壊したり引き裂いたりする犬は、そうではない犬に比べて衝動性が高く、自己制御力や飼い主への愛着度などについて問題があると考えられるスコアを多く示していました。また、物を破壊したり引き裂いたりする犬の方が、異物を食べてしまった回数が多かったことも示されました。

これらの結果から、動物病院での診察時に「犬が異物を食べてしまう」「破壊行動がある」などの報告を受けた獣医師は、異物を食べてしまったことに対する治療だけではなく、その根底にあるかもしれない行動学的な問題に対して、行動学の専門家の診察を受けるように推奨する必要があると研究者は述べています。また定期検診やワクチン接種などの際に、行動学的な評価とともに、異食や破壊行動に関する質問を飼い主にする必要があるとも述べています。

まとめ

獣医師とシーズーと飼い主

犬が食べ物ではないものを食べてしまう異食症について、行動異常との関連を調査した研究結果をご紹介しました。

研究者は今回のリサーチから、犬の異食症には多動性、衝動性、強迫性障害、不安障害、飼い主への愛着の問題が関連している可能性を示唆しています。また異物を食べてしまった犬には、体的な治療だけでなく行動学の専門家による診察や治療を獣医師から推奨することの重要性、現在はまだそれが充分に行われていないことも述べられています。

異物を食べてしまうことは犬の命に関わる深刻な問題です。しかしそれだけではなく、異食症には行動学的なアプローチが重要で、解決法になる可能性があることが示されました。「どうしてうちの犬は、色んな物を口にしてしまおうとするのだろう?」と悩む飼い主さんは、他に何か犬の行動で困っていることや気になっていることはないか、考えてみると良いかもしれません。

《紹介した論文》
Sylvia Masson, Nadège Guitaut, Tiphaine Medam, Claude Béata. Link between Foreign Body Ingestion and Behavioural Disorder in Dogs. Journal of Veterinary Behavior. Volume 45. 2021. Pages 25-32.
https://doi.org/10.1016/j.jveb.2021.04.001

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