バセンジーのゲノムを解析
ゲノム(ある生物種を規定する遺伝情報全体のこと)と遺伝子についての研究は、近年大きな進歩を遂げ、様々な新しいことが解明されています。
この度、オーストラリアのニューサウスウェールズ大学のバイオテクノロジーと生体分子科学の研究者チームによって、バセンジー犬のゲノム配列が解析されマッピングされました。ゲノムのマッピングとは、ゲノム(遺伝情報全体)を構成する遺伝子地図を作成し、ゲノムの全体像を理解できるようにすることを言います。
バセンジーは中央アフリカ原産で、コンゴでは現在も狩りに使われており、最も早い時期に家畜化された古代犬種の1つと考えられています。「吠えない犬」として知られるバセンジーは、独特の系統発生、地理的起源を持っているため、そのゲノム構造を解析するべく選ばれました。
バセンジー、ボクサー、ジャーマンシェパードのゲノムを比較
研究者は最先端のゲノム配列決定のテクノロジーを、3種組み合わせてバセンジーのゲノムを組み立てました。そしてジャーマンシェパードおよびボクサーのゲノム配列との比較を行いました。
ジャーマンシェパードとボクサーでは、ボクサーの方がより高度な選択育種の結果出来上がった犬種です。ジャーマンシェパードもバセンジーより、人為的な選択を経て来た犬種です。
ボクサーはマスティフの系統と密接に関係しています。近代になって作られた犬種のほとんどは何らかの犬種の系統と遺伝的に関連していますが、このことが遺伝学の研究にとって支障になる可能性があります。
例えば遺伝的変異を調べる際に、比較のための参照とする犬が特定の遺伝的系統に関連していると、調査結果にバイアスが生まれるかもしれないからです。
バセンジーのゲノムは、他のほとんどの近代的な犬種から等しく離れているため、比較研究の際のバイアスが少なくなるという利点があります。
近代的な犬種と古代犬種であるバセンジーのゲノムを比較して、それぞれの犬種の家畜化と犬種開発のプロセスを調査していくことで、特定の病気に関連する特定の遺伝子を探す助けになります。
犬種間だけでなく、野生のイヌ科動物との比較も
犬の原型とも言えるバセンジーと近代的な犬種の比較だけでなく、研究者はバセンジーのゲノムとオオカミ、ディンゴ、キツネなど野生のイヌ科動物と比較することで、犬の進化の歴史の未知の部分に取り組むことができると期待しています。
人間が野生のイヌ科動物を家畜化した初期の犬種の作成、人間がどのようにイヌという生き物を作り上げて来たのかという疑問に近づくことができるかもしれません。
まとめ
アフリカ原産の古代犬種バセンジーのゲノム配列が解析され、犬の病気と遺伝子の関連、犬の進化の歴史などの将来の研究の大きな手がかりとなるという話題をご紹介しました。
オオカミから犬への家畜化と言っても、最も古い犬種と言われるバセンジーとオオカミの容姿には大きな違いがあります。一方でアラスカンマラミュートやシベリアンハスキーなどオオカミに近いと言われると、納得の見た目を持つ犬もいます。
そして人間の手が高度に入ることで、バセンジーとも大きく違う近代の犬種トイプードルやパグといった犬種もいます。これらの遺伝子の変遷の歴史をバセンジーのゲノムが紐解いてくれるとしたら、とてもワクワクしますね。
《参考URL》
https://bmcgenomics.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12864-021-07493-6