️犬の皮膚の特徴と役割
皮膚は犬の体の重量の約12%を占める、大きな組織です。犬の皮膚の一番外側の層である角質層は、人間の1/3程度の厚さしかないため、刺激や乾燥に弱いという特徴があります。
皮膚の役割には、主に以下のようなものがあります。
- バリア機能:物理的な力や化学物質、微生物、紫外線など、体外の刺激から体を守るとともに、体内から水分が喪失するのを防ぎます。
- 分泌作用:皮脂や汗などを分泌します。
- 感覚器:触覚や痛覚、冷覚などを感知する受容器があります。
️犬の肌トラブル、皮膚の病気の例
脂漏症(しろうしょう)
脂漏症は、過剰な皮脂で皮膚がベタベタしフケが付着する「脂性脂漏症」と皮脂のバランスが崩れ皮膚はベタベタしていないけれどもフケが多く見られる「乾性脂漏症」の2つに分けることができます。
どちらも皮脂のバランスと表皮のターンオーバーに異常が見られます。犬の表皮のターンオーバー期間は、一般的に約3週間と言われています。脂漏症ではそれが1週間程度と極端に短くなっているために多くのフケが見られるようになり、皮膚のバリア機能が低下したり常在菌のバランスも崩れ、皮膚のかゆみや発赤などが見られるようになります。
脂漏症になる原因には、遺伝的なもの(アメリカン・コッカー・スパニエルやウェスティなどに多く見られます)や他の皮膚病、内分泌の病気や間違ったスキンケア(肌質に合わないシャンプーでしょっちゅう洗いすぎるなど)などがあります。高温多湿になる初夏~初秋にかけて悪化する場合もあります。
- 症状:皮膚がベタつく、フケ、脱毛、かゆみなど
- 治療方法:基礎疾患の治療、抗生剤、抗真菌薬、食事管理、シャンプー、スキンケアによる保湿、環境の整備(高温多湿の環境にしない)など
膿皮症(のうひしょう)
ブドウ球菌という細菌が増えすぎてしまうことによる皮膚炎が「膿皮症」です。
ブドウ球菌は常在菌ですが、何らかの原因で皮膚のバリア機能が弱まったときに細菌が異常繁殖し、皮膚症状が現れます。かゆみのために犬自身が患部を舐めたりひっかいたりすることで、悪化しやすいです。
皮膚のバリア機能が低下するアトピー性皮膚炎や内分泌疾患を持っている犬などがかかりやすく、高温多湿の夏にはより多く発症します。
- 症状:赤い発疹、膿疱、かゆみ、(時間が経つと)色素沈着
- 治療方法:抗生剤、シャンプー、スキンケアによる保湿など
皮膚糸状菌症(ひふしじょうきんしょう)
皮膚糸状菌症は、皮膚や被毛に真菌(カビ)の一種が感染する病気です。
人や他の動物にも感染する人畜共通感染症です。人では円形の発疹が見られるため、「リングワーム」の異名を持ちます。
免疫力の低い幼犬や高齢犬で感染リスクが高まります。
- 症状:脱毛、フケ、皮膚の赤み、かゆみはあることもないことも
- 治療方法:抗真菌生剤の内服薬や外用薬、抗真菌剤入りのシャンプー、環境整備
アトピー性皮膚炎
10~15頭に1頭で見られると言われているとても多い皮膚疾患です。
遺伝的な要因が大きく、慢性的なかゆみが続きます。完治させることはできないため、生涯にわたって治療やケアが必要となることがほとんどのようです。
アトピー性皮膚炎はアレルギーの一つであり、例えばアトピー性皮膚炎の犬で花粉にもアレルギーを起こす場合には、花粉が飛散する春~初夏に症状がひどくなるといった季節による変化が見られることがあります。
- 症状:強いかゆみ、発赤、脱毛など
- 治療方法:ステロイド、免疫抑制剤、その他のかゆみを抑える薬、シャンプー、食事療法、スキンケアによる保湿など
ホットスポット(急性湿性皮膚炎)
傷やアレルギーなどによる炎症などが元となって犬がなめたりひっかいたりし、皮膚がただれ、そこに細菌感染が起こってジュクジュクする皮膚炎で、急激に進行し、強い痒み、時には痛みを伴います。ダブルコートで下毛が厚い犬に多く見られ、高温多湿となる時期、換毛期で抜け毛が多くなる時期に特によく見られます。水遊びやシャンプー後にしっかりと皮膚や被毛を乾かさなかった時に起こることもあります。
- 症状:強いかゆみ、発赤、脱毛、ただれなど
- 治療方法:消毒、抗生剤、ステロイド、シャンプーなど
️皮膚の異常を知らせる行動
犬が体を掻く行為は、割とよく見る光景です。
しかし、体を掻く頻度の増加や体をよじるような仕草に違和感を感じたら、皮膚に赤みや湿疹がないかどうか確認してみて下さい。
- 一定の場所を掻き続ける
- 体を舐め続ける
- 体を床などに擦り付ける(特に、自分では掻けない部位を)
上記は皮膚に何らかのトラブルが起こっている可能性が考えられる行動です。放っておくと重症化してしまうので、早めに病院に連れて行くようにしましょう。
️肌トラブル、皮膚病の対処法
病院を受診すると薬をもらうことが多いと思いますが、皮膚病を治すには、もらった薬を指示通りにきちんと飲ませること以外にも飼い主さんが行えることがあります。
1.適切なシャンプー
皮膚病の場合、飲み薬や塗り薬以外にも治療の一環としてシャンプー(薬浴)をするように言われることがあります。シャンプー剤も指定されたり処方されたりします。皮膚病によっては、次にご説明するスキンケアと共にシャンプーは大事な治療の一つですので、指示された通りにシャンプーできるようにしましょう。ご自身で行うのが難しい場合には、動物病院でシャンプーしてもらったり、シャンプー剤を持ち込んでトリミングサロンでシャンプーしてもらうこともできます。
皮脂を落とすため、細菌を洗い流すため、保湿をするためなど、シャンプーではどのシャンプー剤を使うかと共に頻度も大事です。早く治したいからと、指示された以上に頻繁にシャンプーするのは避けましょう。
また、皮膚に異常がなくても、抜け毛がたまりやすい換毛期にはブラッシングとシャンプーの頻度を増やしたり、普段からどんなシャンプーが愛犬の肌質に合うのかを考えながらシャンプーをすると良いでしょう。
2.スキンケア(保湿)
アトピー性皮膚炎や脂漏症などでは、シャンプーやローションなどで皮膚を保湿してあげることがとても重要になります。皮膚のバリア機能を向上させるためのサプリメントもあります。「犬にスキンケア?」と思わずに、指示された通りにしっかりと保湿をしてあげましょう。
また、過ごしやすい室温を維持するために冷暖房を使用すると、空気が乾燥して湿度が下がります。皮膚病がない場合でも、冷暖房を使用する季節には皮膚が乾燥していないか、もっと保湿性の高いシャンプーやトリートメントに変えてあげた方が良いか、気にしてあげると良いでしょう。
肌の調子を整え、強い皮膚を作るには「保湿」が重要です。皮膚病がある場合は特に、そうではなくても人と同じようにお肌の保湿に気をつかってあげましょう。
皮膚の中の水分量を増やす「セラミド」を配合したローションやスプレーなどもあります。
️まとめ
気温が上がり湿気が多くなると、細菌やカビなどが繁殖しやすくなり皮膚トラブルが起こりやすくなります。
「ブラッシングで抜け毛を除去し、通気性を良くする」「シャンプーで皮膚を清潔にし潤いを保つ」ことで、皮膚を健康に保ちましょう。
また、皮膚にトラブルが見られる時は耳にもトラブルが起こることが多くあります。外耳炎はどんな耳の犬でもなる可能性がありますが、特に垂れ耳の犬は、耳の内側が蒸れて「外耳炎」になる確率が高くなることがあります。また、アトピー性皮膚炎や脂漏症などがある場合、高い確率で外耳炎が見られます。動物病院で診察を受け、皮膚と共に耳もきちんとケアしてあげましょう。