大人の表情に対する幼児の反応からヒント
私たちが誰かとコミュニケーションを取る時に一番頼りにするのは言葉ですが、同時に相手の表情も大きな要素の1つです。人間同士と言っても、まだ言葉が未発達な乳幼児では表情が果たす役割はより大きくなります。
相手の表情が乏しく無反応な時、コミュニケーションにどのような影響を与えるかを調査するための「無表情のパラダイム(捉え方)」という手法があるそうです。これは主に幼児の感情や母子関係の研究のために使用されています。
その手法とは、第1段階で大人が幼児に向かって積極的でポジティブな表情を見せて交流します。第2段階で突然表情を消して幼児への反応をストップします。第3段階で再び最初と同じく積極的でポジティブに交流します。全ての段階は1分間です。
この実験では、子供たちは第2段階を嫌い、第3段階で最初と同じように反応しても否定的な感情を示しました。子供たちは心拍数の増加やストレスホルモンの増加など、肉体的なストレス反応も示していました。
この結果について、犬ならばどのように反応するだろうか?ということで、アルゼンチンのリトラル大学獣医学の研究者とスペインのCEUカルデナル・ヘレラ大学動物行動学の研究者は、上記の実験を犬を対象にして行いました。
人間が無表情になった時の犬の行動を観察
実験に参加したのは、さまざまな年齢の23頭のビーグルです。研究のために飼育されている犬たちなので、社会化や居住環境は皆同じ条件です。
実験の手法は幼児の場合とほぼ同じで、実験者は犬との交流を3段階に分けて行いました。各段階はそれぞれ1分間ずつでした。
第1段階では、実験者が床に座ってアクティブかつポジティブに犬に話しかけたり撫でたりして交流を持ちました。次に第2段階では全ての活動をストップして無表情で受け身な態度を保ちました。最後の第3段階で、最初と同じアクティブかつポジティブな交流を再開しました。
さて、犬たちはどのような反応を示したのでしょうか。
犬とよりよく理解し合うために
犬たちの反応は人間の幼児とほぼ同じものでした。
第1段階から第2段階に移行すると、犬は実験者とアイコンタクトを取ろうとする回数が約3分の1にまで減少し、また犬から実験者に対する身体的接触は半分以下に減少しました。
それだけでなく、犬は実験者から離れて行き、側に居た時間は全体の約半分ほどしかありませんでした。これは第2段階だけでなく、第3段階でアクティブな交流を再開した時にも同じ状態が続いていました。
実際に一緒に生活している犬と人間では、コミュニケーションは顔の表情以外に、ボディランゲージや匂いが大きな役割を果たしています。しかし、この実験からは犬にとって無表情な人間は魅力的ではないことが明確にわかります。
犬が人間の表情の意図するところをどの程度理解しているのかについてはさらに研究が必要ですが、少なくとも犬が私たちと積極的に交流し相互理解するための第一歩として、アクティブな声やポジティブや表情というのは有意義であると言えます。
まとめ
笑顔でアクティブに犬と交流している人間が突然無表情で無反応になると、その時はもちろん再度アクティブになっても犬は人間と積極的に関わることを止めてしまうという実験の結果をご紹介しました。
犬とコミュニケーションを取る時には、ポジティブな表情で明確な表現をすることが大切だという説があります。この研究の実験結果はそのことを一部裏付けているとも言えます。
ありがたいことに、犬に対して笑顔でポジティブに接するというのは、それほどハードルの高いことではありません。愛犬にとって魅力的な人間であるために、大いに役立つヒントですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1080/10888705.2021.1923493