ロットワイラーに多くみられる遺伝性の難聴
聴覚障害は人間でも犬でも多くみられる感覚障害です。しかしその原因、症状の重さ、発症する年齢は様々で複雑です。
犬の遺伝性難聴は症候性難聴(外耳やその他の器官の奇形、または他の臓器疾患を伴う難聴)に関してのみ遺伝子の変異が特定されており、外耳奇形や他の疾患は伴わない非症候性難聴については遺伝的な根拠は明らかになっていませんでした。
この度フィンランドのヘルシンキ大学の遺伝学研究者のチームが、ロットワイラーに見られる稀なタイプの非症候性難聴に的を絞り調査を行い、その結果を発表しました。
音を聞くための器官における遺伝子の変異体を特定
研究対象となった難聴はロットワイラーに見られるものです。子犬期の早い段階で発症し、数ヶ月齢で難聴へと進行します。同様のタイプの難聴は少数ながら雑種犬でも見られるのですが、その大部分はロットワイラーの系統の犬でした。
研究チームは585頭の個人所有のロットワイラーから血液サンプルを採取しました。この中には4頭の非症候性難聴の犬が含まれます。これらのサンプルからゲノムDNAを抽出し、分析が行われました。
犬や人が聞く音は空気の振動として耳の中に入って来て、内耳の蝸牛(かぎゅう、うずまき管とも言う)という器官へと届きます。
ここで音を感受するのが蝸牛の内部にある有毛細胞です。有毛細胞には感覚毛という細い毛がついており、音の振動で感覚毛が揺れることで音は電気信号に変換され、脳で音として認識されます。
DNA分析の結果、この感覚毛の機能に関して重要な役割を持っているLOXHD1遺伝子の変異体が難聴に関連していると特定されたそうです。
難聴を引き起こす遺伝子が特定されると何ができる?
LOXHD1遺伝子の変異によって引き起こされる難聴が発症するためには、この変異遺伝子の2つのコピーを持っている必要があります。1つは父親から、もう1つは母親から、つまり父母の両方がこの変異遺伝子を持っている場合にのみ、難聴が発症するといいます。
この度の発見の結果から、ブリーディングに使用する犬が変異遺伝子を持っているかどうかをテストできるようになりました。難聴を発症する遺伝子を持っている犬を繁殖から外すことで、早い時期に聴覚を失う犬が生まれることを予防できます。
またLOXHD1遺伝子の変異はヒトやマウスでも遺伝性の難聴を引き起こします。この研究の結果は人間の遺伝性聴覚障害のリサーチのための新しい道を開くと研究者は述べています。
まとめ
ロットワイラーの子犬に早期に発症する難聴の原因となる、遺伝子の変異体が特定されたという研究結果をご紹介しました。
同研究チームは、他にも遺伝性先天性聴覚障害と成犬になってから発症する難聴が、特定の犬種で発症することを確認しています。これらの結果は人間の遺伝性聴覚障害の研究に大いに役立つと考えられます。
この度の難聴もまた一例ですが、様々な遺伝性の疾患や障害の詳細が明らかになり、研究結果を実用化することで多くの病気や障害に苦しむ犬が生まれることを予防できます。
一般の飼い主もこのことをしっかりと認識して、正しいブリーダーの選択などに活用していかなくてはいけませんね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1007/s00439-021-02286-z