犬の社会的な学習に影響する要素はなんだろう?
皆さんもご存知の通り、犬は社会的な動物です。自分の周りの他の犬や人間との関わりの中で様々なことを学習することを社会的な学習と呼びます。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学者は、以前の研究で家庭に複数の犬がいる場合、支配的な犬と従順な犬では学習スタイルに違いがあることを報告しました。
その結果からさらに掘り下げて、犬の社会的な学習能力に犬の行動や性格が関連しているという新しい研究結果を発表しました。
論文のタイトルは「怒りっぽい犬は賢い学習者です」で始まっており、犬の社会的学習能力を観察するための実験結果が報告されています。
犬を性格別に分けて、トリーツにたどり着くための実験
実験にはハンガリーの複数のトレーニング施設からスカウトされた98頭の家庭犬と飼い主が参加し、飼い主は犬の性格や行動に関する質問票への記入を求められました。これは主に犬が周囲からの刺激にどのくらい強く反応するか、敏感であるかを知るためのものです。
その後、犬たちは実験に参加しました。犬の前に高さ1mの金網のフェンスがV字型に立てられます。V字の1辺の長さは3mで、犬とフェンスの間は2m離れています。
このような状態で金網の向こう側にトリーツが置かれます。金網ですから、犬にもトリーツは見えています。トリーツにたどり着くためには、3m歩いて向こう側に回り込む必要があります。犬たちはランダムの3つのグループの分けられました。
1つのグループは回り込む経路を示されずに犬単独でトリーツを取りに行かせます。
2つめのグループは、飼い主が回り込む経路を示した後に、トリーツを取りに行かせます。
3つめは実験者(犬にとって見知らぬ人)が回り込む経路を示した後にトリーツを取りに行かせます。
3つのグループで犬がフェンスを回り込まなくてはいけないことを理解しトリーツにたどり着くまでのパフォーマンスが観察されました。
最後に犬たちは2種類の行動テストを受けました。1つは与えられた骨を飼い主に渡すように指示されるテスト、もう1つは言葉やジェスチャーのキューを使わずに飼い主が犬をそっと横たわらせようとした時の反応を見るというものです。
「怒りっぽい」とラベル付けされた犬たちの学習能力
飼い主への質問票と行動テストの結果から犬の性格や行動がラベル付けされたのですが、これらをザックリと大きく分けると「楽天的でフレンドリー」「怒りっぽく不機嫌」のどちらかの傾向になります。
3グループの実験の結果は「犬単独で」「飼い主が経路を示す」のグループ内では、トリーツにたどり着くまでのパフォーマンスに大きな違いはありませんでした。
しかし「実験者が経路を示す」のグループでは「怒りっぽく不機嫌」な傾向のある犬が、素早く経路を学習して良いパフォーマンスを示したそうです。
研究者はこの結果について次のように説明しています。
体に触られたり気に入らないことがあると唸ったり吠えたりする(つまり怒りっぽく見える)犬は、周囲の状況や人間の行動に対して敏感でよく注意を払っているとも言えます。その注意力が、たとえ見知らぬ人でもトリーツにたどり着くための経路を示した時に、それが何を意味するのかを理解し学習するスピードにつながっているとのことです。
まとめ
飼い主の認識や行動テストから「怒りっぽい」「攻撃的」「不機嫌」と言われる犬は、周囲の状況に敏感で、人間の行動を観察して学習する能力が高いというリサーチ結果をご紹介しました。
この結果について、犬種や犬のトレーニング履歴などが考慮されていないので必ずしも正確ではないとする声もあるそうです。
しかし犬と暮らす人が知っておきたい点は、人間にとって問題だとされる犬の行動は、高い能力や感受性の反映である可能性だということです。犬がブラッシングを嫌がって唸るのは性格が悪いからではなく触られることに敏感だからかもしれないし、頻繁に吠えたり唸ったりするのは人間の行動から次に何が起こるかを知っていて抗議しているのかもしれません。
このような可能性があることを考慮して、人間が犬への対応を変えることで犬の反応も変わることはもっと広く知られる必要があります。
「犬がワガママになる」「犬の行動を直す」「犬になめられる」という発想では、犬を理解することも、犬と人間双方がハッピーでいることもできないことが示された研究結果ではないかと思います。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/2076-2615/11/4/961/htm