特定の犬種に多い組織球性肉腫
ゴールデンレトリーバー やフラットコーテッドレトリーバー、バーニーズマウンテンドッグに発症が多いガンの1つに組織球性肉腫というものがあります。他にはロットワイラーやウェルシュコーギーなども好発犬種とされていますが、特に有病率が高いのはフラットコーテッドとバーニーズマウンテンです。
このガンは非常に悪性度が高く、急速に全身に転移する攻撃的なものです。アメリカの国立ヒトゲノム研究所の研究チームが、この組織球性肉腫の発症リスクの3分の1以上を説明できる2つの遺伝子領域の突然変異を特定したと発表しました。
フラットコーテッドレトリーバーを対象に危険因子をリサーチ
組織球性肉腫はヒトでは非常に稀なガンで、犬においても全犬種で見るとそれほど多くは見られません。全く発症しない犬種も少なくありません。
しかしフラットコーテッドレトリーバーでは約20%、バーニーズマウンテンドッグでは約25%という非常に高い発症を示し、致死率はほぼ同じです。
以前のゲノムワイド関連研究で、バーニーズマウンテンドッグについてはこの病気に関連する染色体の遺伝子座の特定ができたのですが、フラットコーテッドレトリーバーの遺伝的素因は判っていませんでした。
バーニーズとフラットコーテッドの祖先は共通しておらず、身体的な属性も違っています。しかし組織球性肉腫における2犬種の有病率の異常な高さは、少なくとも部分的に重複する遺伝的危険因子があると考えられます。それはおそらく200年前以降にヨーロッパで起こった近代犬種の爆発的な増加を反映しているとも考えられます。
上記のような背景で、フラットコーテッドレトリーバーを対象にして複数のゲノムワイド関連解析が実施されました。
組織球性肉腫に関連する2つの遺伝子座
研究者は組織球性肉腫に罹った177頭と、罹っていない132頭のフラットコーテッドレトリーバーのゲノムワイド関連解析を実施しました。その結果、このガンに関連する2つの遺伝子座が特定されました。遺伝子座とは染色体上の遺伝子の位置のことです。
特定された2つの遺伝子座の1つCFA5は腫瘍抑制遺伝子の近くに変異が含まれていることがわかりました。このCFA5はゴールデンレトリーバーの他の血液ガン(血管肉腫とB細胞リンパ腫)に関連する遺伝子座とも重複しています。
もう1つの遺伝子座CFA19は細胞転移に関与する他の遺伝子TNFAIP6の発現を増加させる対立遺伝子を抱えています。TNFAIP6はヒトのガンのうちいくつかの予後不良と関連することも判っています。
特定された2つの染色体領域は、フラットコーテッドレトリーバーの組織球性肉腫のリスクの35%を占めるとのことです。
研究者はフラットコーテッドレトリーバーの研究を通して、ヒトのガンの新しい診断と治療の方法を開発するための遺伝子を特定したいと述べています。
まとめ
組織球性肉腫という悪性度の高いガンの好発犬種フラットコーテッドレトリーバーにおける、このガンに関連する遺伝子座が特定されたという研究結果をご紹介しました。
重篤な病気に遺伝的な要因が大きく影響していることが明らかになるたび、きちんとした検査と戦略の上でのブリーディングの重要性が強調されます。検査や治療方法の開発については研究者にお任せするしかありません。
しかし特定の犬種を家族に迎えたいと考えた時に、どのようなブリーディングで生まれてきた犬かに徹底的にこだわることは、一般の飼い主も参加できる対策の1つです。そのためにも遺伝病に関する情報をチェックしておくことが大切です。
《参考URL》
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pgen.1009543