飼い主の長期的ストレスに影響される犬
犬と暮らしていると、自分の気分が落ち込んでいるときは愛犬も何となく元気がないような気がするとか、自分がウキウキした気持ちの時には、犬もはしゃいでいるように見えると感じることがあります。
このような感じへの回答のような研究結果が、2019年スウェーデンのリンショーピング大学の生物学の研究チームによって発表されました。
それは犬のストレスレベルは飼い主の長期的ストレスに同期して増減するというものでした。つまり飼い主が長期的なストレスを感じている時、犬もまたストレスを感じているということです。
犬と飼い主のストレスレベルは、生理学的ストレスを示すコルチゾールというホルモンを犬の被毛と人間の頭髪から測定して分析されました。
この2019年の研究ではシェトランドシープドッグ33頭とボーダーコリー25頭が参加し、どちらも牧畜のためのハーディング犬種で、人間と共同作業をするために選択育種された犬種です。
今回は同じ研究チームが、共同作業のために選択育種されたのとは違う別の犬種でも同じような現象は起きるのかという疑問を明らかにするためにリサーチを実施しました。
古代犬種と独立作業をする犬種で比較
研究チームはハーディング犬種とは全く逆のタイプの犬種を選んでリサーチ。
ひとつは遺伝的にオオカミに近いと考えられる古代犬種、もうひとつはスウェーデンの伝統的な狩猟方法に使われる犬種です。この狩猟方法は犬だけを森に放ち、自主的に獲物を追い詰めさせるというもので、人間との共同作業の面は非常に小さく犬が独立して作業をします。
これらの犬種はSNSまたはブリーダーや狩猟協会からの紹介で募集され、古代犬種24頭、独立作業の犬種18頭が飼い主と共に参加しました。
ハーディング犬種の時と同様に、飼い主のライフスタイル、犬と飼い主両方の性格、犬と飼い主の関係性を、それぞれ標準化された検査表を使って評価しました。飼い主の性格特性や関係性が犬のストレスレベルに与える影響を調べるためです。
犬の被毛と人間の頭髪サンプルも採取され、コルチゾール値の分析に使用されました。
独立気質の犬たちも飼い主の影響を受けるのか?
犬と飼い主との関係性を記入された検査表から分析したところ、古代犬種の犬たちはハーディング犬種の時とほぼ同じような関係性が見られました。対照的に狩猟犬種では飼い主との関わり合いが少なく感情的なつながりが弱いように見えました。
ただし、参加した古代犬種はペットとして飼われているのに対し、狩猟犬種は大部分が狩猟のために飼われていたので、犬種による違いと言うよりも犬が飼育されている目的による違いを反映している可能性があります。
被毛に含まれていたコルチゾール値から犬の長期的なストレスレベルを分析したところ、古代犬種では飼い主との関係性も飼い主の性格特性からも大きな影響を受けていなかったといいます。独立作業をする猟犬種では飼い主との関係性と性格特性の両方と明確な関連性を示していました。
しかしどちらの犬種も飼い主が長期的ストレスを受けていても、その影響は現れていませんでした。したがって飼い主の長期的なストレスへの同期は、人間との共同作業のために選択育種された犬種の特徴である可能性があります。
まとめ
以前に発表された、飼い主が長期的ストレスに晒されている時に、ハーディング犬種の犬は同期してストレスを感じているという研究結果を受けて、独立気質の狩猟犬種と古代犬種をリサーチしたところ、ストレスについては同期していなかったという結果をご紹介しました。
犬はその外見の多様性がよく取り沙汰されますが、このリサーチに表れているような気質やメンタル面の多様性も興味深いものです。犬と暮らす前に、その犬種の性格特性や犬種の由来や目的をよく知っておくことの重要性が伺えます。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-021-88201-y