犬のガン治療
ガンは犬の死亡原因として依然上位にあり、またその種類も様々です。人間のガンの治療は免疫療法なども多く使われるようになって来ました。犬のガン治療も世界中の研究者が治療方法の開発に取り組んでいますが、一般的な動物病院ではガンの治療は手術、抗がん剤、放射線療法と選択肢が少ないのが現実です。
しかし明るいニュースとして、先ごろ北海道大学獣医学部の研究者チームが人間のガン治療に実際に使われている方法と同様の作用機序を持つ、犬のガンの新しい免疫療法薬を開発したという発表がありました。
ガン細胞による免疫機能へのブレーキを阻害する薬
この研究の対象となったガンは口腔悪性黒色腫です。悪性黒色腫はメラノーマとも呼ばれ、一般的ではあるが致命的なガンです。効果的な新しい治療方法を必要とするこのガンに利用可能な方法として研究されたのが免疫チェックポイント阻害薬です。
身体にウイルスや細菌などの異物が入ると免疫が攻撃してやっつけてくれます。ガン細胞も体にとっての異物なのですが、ガン細胞は免疫にブレーキをかけて攻撃をストップさせる仕組みを持っています。免疫チェックポイント阻害薬とは、免疫機能へのブレーキを阻害して、免疫によるガン細胞への攻撃を続けられるようにする薬です。
この研究では、免疫細胞のPD-1というタンパク質とガン細胞のPD-L1という分子が結合すると免疫細胞が働かなくなるため、PD-L1にフタをして結合できない状態(抗PD-L1抗体)にしました。これによってガンに対する免疫の攻撃が強化されるため治療の効果が期待されます。
臨床試験で確かな手応え
この研究の臨床試験には、29頭の口腔悪性黒色腫と黒色腫が肺に転移した犬が参加し、犬たちは2週間ごとに抗PD-L1抗体での治療を受けました。
29頭のうち13頭は直径10mm以上の測定可能な腫瘍を有し、16頭は直径10mm未満の測定不可能な腫瘍を有していました。
治療を受けて5頭の犬の腫瘍が減少または消失しました。うち3頭の犬で検出できる全ての腫瘍が消失し、そのうちの2頭は生存期間が1年を超えました。他の2頭は肺の腫瘍は全て消失しましたが口腔とリンパ節の腫瘍は残っていました。
現在、転移性の口腔悪性黒色腫に効果のある全身療法はないのだそうです。そのためこの抗PD-L1抗体による治療の有効性が示されたことで、新たな治療薬としての実用化が期待されるということです。
PD-L1は悪性黒色腫だけでなく骨肉腫や乳腺腫瘍など他のガンでも発現するため、治療薬はこれらのガンにも適用できる可能性があるとのことです。
まとめ
犬の悪性黒色腫の全身療法として抗PD-L1抗体を使った免疫療法薬が開発され、実用化が期待されるという発表をご紹介しました。
犬のガン治療は数多くの研究が行われ、高い効果が示されているものも発表されています。現在は特定の大学病院や研究施設でのみ受けられる治療が、一般の動物病院での選択肢になるにはもう少し時間がかかりそうです。
研究者への敬意と期待を持って、新しいガン治療の実用化を待ちたいと思います。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41698-021-00147-6
https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/VMTH/content/files/veterinarians/research/20170825_jyu.pdf