犬はなぜ攻撃的な行動をとるのか?という研究
人間にとって問題とされる犬の行動の中でも「攻撃的になること」は特に深刻に捉えられることが多いものです。時には攻撃された人や動物の命に関わることもあるので当然と言えます。
過去にも犬の攻撃性に関する研究は数多く行われており「犬はなぜ攻撃的になるのか?」というのは科学者と一般世論両方の関心を集めているテーマです。
この度、フィンランドのヘルシンキ大学の遺伝子研究のチームによって、純血種の家庭犬の攻撃的行動に関連する要因を特定するための大規模なリサーチが行われました。
フィンランドで純血種を飼っている人からオンラインアンケートを使って、13,715頭の犬の行動データを収集し、うち9270頭のデータが分析に使用されました。
攻撃的な行動に関連する6つの要素
9270頭のうち「頻繁に攻撃的な行動を示す」という項目に当てはまったのは1791頭でした。これは全体の19.3%に当たります。ここで言う攻撃的とは、明らかに遊んだりふざけたりしているのではない状況で人に向かって唸ったり吠えたりする、噛みつこうとしたり実際に咬む行動を指しています。
犬の性質や飼育環境などに関する質問項目と攻撃的な行動との関連の統計を取ると、次の6つの要素が浮かび上がって来ました。
1.年齢
若い犬よりもシニア世代の方が攻撃的行動を示す率が高くなっていました。これは関節炎など慢性的な痛みを持っている犬が多いこと、目や耳が衰えて人間が近づいた時に気づくのが遅く驚くことが多い、などが理由ではないかと推測されます。
2.性別
オス犬はメス犬よりも攻撃的行動を示す率が高くなっていました。しかし実際に人を咬んだことがある犬はメス犬の方が多数でした。不妊化手術の有無については関連が見られませんでした。
3.性質
犬の性質に関する質問項目で「未知のもの、音などを怖がることが多い」に当てはまる犬は攻撃的行動を示す率が高くなっていました。この「怖がりな性質」は他の要素と比べて攻撃的行動との関連が最も強く現れており、怖がる犬はそうでない犬と比べて5倍も攻撃的行動を示す率が高かったということです。
4.体のサイズ
中型犬や大型犬に比べて小型犬は攻撃的行動を示す率が高くなっていました。これは以前の他の研究結果とも一致しています。中型犬と大型犬の間には目立った違いは見られませんでした。
5.犬種
いくつかの犬種では攻撃的行動を示す率が有意に高くなっていました。数の多かったものから順に上位5犬種は、ラフコリー、ミニチュアプードル、ミニチュアシュナウザー、ジャーマンシェパード、スパニッシュウォータードッグで、反対に攻撃的行動が最も少なかったのはラブラドールとゴールデンレトリーバー だったそうです。
6.生活環境
飼い主にとって初めての犬は攻撃的行動の率が高くなっていました。これは犬の問題と言うよりも、初めて犬を飼った時の経験から早い時期のトレーニングや社会化を心がける飼い主が多いからではないかと推測されます。
また多頭飼いの犬に比べて1頭だけで飼われている犬の方が攻撃的行動が多く見られました。これも社会化との関連が考えられますが、単純に攻撃的行動のある犬の飼い主は2頭目を迎えるのをためらう可能性も推測されます。
犬の攻撃的な行動は色々な要素が絡み合っている
犬が見せる攻撃的な行動について、もう少し掘り下げてみましょう。上記の6つの要素からも分かるように、犬の攻撃的な行動は単純に1つの理由だけで起こるわけではありません。
シニア犬が慢性的な痛みや感覚器官の衰えのせいで攻撃的になることは、人間が責任を持って対処しなくてはいけない問題です。適切な医療、近づいてアプローチする時の注意と正しいやり方、これらを提供することで犬と人間両方の安全と快適に繋がります。
小型犬の攻撃的な行動は、犬のサイズが小さいと攻撃的になってもダメージが少ないために対処をしない飼い主が多いからという可能性もあります。
最も大きな要素と言われている怖がりの性質については、犬に関わる全ての人が知っておく必要があります。怖がっている犬は必死になっているので攻撃につながりやすいのです。
犬種別の要素についても、ラフコリーは音などを怖がる犬が多いことも分かっています。またジャーマンシェパードは関節の疾患が多いこと、警察犬など攻撃性が求められる血統のラインもあることも関係している可能性があります。
犬が攻撃的になることを「問題行動」と呼んで、まるで犬のせいのように言うのは間違いです。飼い主が対処できることもあれば、ブリーディングの際に性質や使役目的のラインを注意深く選別することで対処できる問題もあります。どちらにしても対処すべきは人間であることを忘れてはいけませんね。
まとめ
犬が攻撃的な行動を示すことに関連している要素を分析したところ、最も強く影響しているのは犬が何かに対して持っている恐怖の感情であること、他にも色々な要素が絡み合っていることを示した研究結果をご紹介しました。
このような研究は一般の飼い主や子供たちへの教育のため、ブリーダーが気をつけるべき点の確認のために有効です。
この研究の結果を紹介している海外メディアの多くが「最も攻撃的な犬種が明らかになった!」というセンセーショナルで全く的を射ていない見出しをつけて記事にしています。この研究が目指しているところは、攻撃的な行動を見せやすい犬種には健康上の問題、性質の問題などが隠れている可能性があるので適切に対応する必要性を周知することです。
犬の問題行動の多くは人間の行動によって対応できることを認識できる研究と言えます。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-021-88793-5