低侵襲手術のパイオニアUCデイビス校
アメリカのカリフォルニア大学(UC)デイビス校の獣医科病院は低侵襲手術のパイオニアとして、内視鏡を使った手術を長年に渡って行なってきました。
低侵襲手術の侵襲とは文字の通り「侵入し襲う」という意味ですが(怖いですね)医学においては生体の内部環境に害を及ぼす可能性がある刺激全般を指します。病気や怪我だけでなく治療に必要な手術も生体に傷をつけるので「侵襲」の1つです。
そのような刺激を低く抑えたのが低侵襲の手術で、具体的には身体に小さい穴を開けて内視鏡を挿入して患部を切除する方法です。身体を切る範囲が小さいため出血が少なく、負担が少ないことが特徴です。
この度、同病院において獣医療では初めての3Dスコープを使った腹腔鏡下副腎摘出手術が行われたというニュースが届きました。
クッシング病の犬の副腎摘出手術
手術を受けたのは8歳のボストンテリアのルイ君でした。かかりつけの獣医師によってクッシング病と診断されカリフォルニア大学デイビス校の病院に紹介されました。
クッシング病の多くは脳下垂体または副腎に腫瘍ができることで起こります。副腎が過剰にホルモンを分泌し、多飲多尿、皮膚症状、免疫力の低下などの症状を引き起こします。
ボストンテリアのルイ君は左右に1つずつある副腎のうち右副腎の腫瘍が原因で、右副腎を手術によって除去することになりました。
UCデイビス校の病院では、腹腔鏡手術で副腎摘出を行なってきた実績があります。しかしルイ君の手術は、獣医療では初の3Dスコープを使用するものだったそうです。
従来の内視鏡手術では体内の様子が2次元(2D)の映像でモニターに映し出されるのですが、2D画像では奥行きの感覚が失われがちで手術に時間がかかる可能性がありました。
3Dスコープでは、2つのカメラが設置されておりモニター上に2つの映像が表示されます。医師は3Dメガネを装着してモニターを見ることで、モニター上に3D画像が表示され、手術領域がより適切に把握できます。
この技術は人間の手術では数年前から使用されておりエラーの減少や処置時間の短縮といった成果をあげているといいます。
獣医療における3D内視鏡手術の未来
ルイ君の右副腎は無事に摘出され、腫瘍は良性であったことが確認されました。食欲や喉の渇きも正常に戻り、主治医はクッシング病が治癒したと診断しているそうです。
同病院では3Dスコープを研修医のトレーニングにも使用していくと言及しています。内視鏡を使った手術の障壁の1つだった奥行きの感覚の喪失がないことで、副腎摘出だけでなく様々な種類の低侵襲手術の可能性が広がることが期待されています。
3Dスコープの機器はたいへん高価なため、大学病院のような最先端の医療施設以外ではまだ導入が難しいそうですが、犬の体に負担の少ない手術が実用化されているというのは明るいニュースですね。
まとめ
アメリカの大学獣医療病院で、獣医療では初めての3Dスコープを使った腹腔鏡手術が行われたというニュースをご紹介しました。
腹腔鏡をはじめとする内視鏡手術は開腹手術とは違う技術が必要となります。動物病院では内視鏡手術を実施しているところはまだあまり多くないそうですが、飼い主も知識として知っておくといざという時に役に立つかもしれませんね。