アラビア半島で発見された犬の家畜化の証拠
近年、様々な技術の発達によって犬の家畜化の歴史や起源が少しずつ明らかになりつつあります。しかしその多くはヨーロッパや北米を中心としたもので、他の地域の犬の家畜化については未だ解明されていない部分がたくさんあります。
この度、現在のサウジアラビアにある古代の埋葬地から犬の骨が発見され、アラビア半島における犬の家畜化の最も初期の証拠として報告されました。
調査を行ったのは、サウジアラビア王国のアルウラ王立委員会から調査を委託された西オーストラリア大学の考古学者のチームです。アルウラは世界的にも意義のある遺跡や遺物を多く有する地域で、サウジアラビアはこの地域を保護保全して開発するための計画を発表しています。
アラビア半島の古代の埋葬地
研究チームが注力して調査しているのは、紀元前5000〜4000年頃の地上埋葬地です。埋葬地が地上にあるという特殊な形態で、アラビアの歴史の中でもこの時代に特有のものだそうです。調査対象の埋葬地は約130km離れた2箇所で、1つは火山性の高地にあり、もう1つは乾燥した荒地にあります。
2つの埋葬地のうち火山性の高地の遺跡から犬の骨が発見されました。調査によると、この埋葬地は約600年間で少なくとも4回使用されたことがわかりました。
それはつまり、そのような長い期間に渡って人々がこの地を大切にして受け継いでいたことを意味し、記念碑的な意味のある墓地であったのだと考えられます。このような記念碑的な墓地というのは同地域の同時代では前例のないことだそうです。
埋葬地からは1頭の犬、7人の大人、4人の子供の骨が発見されました。代々受け継がれた記念碑的な墓地に人間と一緒に埋葬されていたというのは、この犬がコミュニティにとって重要な存在だったことが伺えます。
埋葬地の犬の骨から判ったこと
犬の骨の年代は紀元前4200年〜4000年頃とされました。これはアラビア半島での犬の家畜化の最も初期の証拠となり、今まで考えられていた時期と約1000年のズレがあります。
チームに属する動物考古学者が特定の骨を分析し、そのサイズが他の古代中東の犬の大きさの範囲に一致しており、当時のこの地のオオカミよりも小さいことから、この骨を犬のものであると判断しました。
犬の骨は関節炎の兆候を示しており、これはこの犬がシニア期まで人間と一緒に暮らしていたことを示しています。
この地域で見つかった遺跡のうち、岩に絵を彫りつけたロックアートには大型の動物を狩る時に、犬を使用していたと示す絵が描かれています。関節炎を患った犬は狩りには使えなかったと思われますが、そのような犬も大切に扱われていたらしいことは何となく嬉しくなります。
この埋葬地の発見は、この地域の考古学的遺産としての重要性を示しており、今後さらに調査研究が進められて行くそうです。犬の家畜化についてもさらに興味深い発見が報告されるかもしれませんね。
まとめ
サウジアラビアのアルウラの古代埋葬地から犬の骨が発見され、アラビア半島における犬の家畜化の最も初期の証拠となったという報告をご紹介しました。
アラビア半島を含む中東地域は、最も古い犬種の1つであるグレーハウンド系の犬の起源ではないかと考えられています。古代の砂漠を駆けるスラリとした犬の姿を想像するだけでワクワクしますが、今後の新しい報告もまた楽しみです。
《参考URL》
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00934690.2021.1892323