ゴールデンレトリーバーに特化した生涯健康研究
アメリカのコロラド州に本部を置くモリス動物財団は、世界最大クラスの非営利動物健康研究組織です。同財団では2012年より、ゴールデンレトリーバー に非常に多いガンの研究のために同犬種に特化した研究を開始しました。
一般のゴールデンレトリーバー 飼い主の参加を募り、定期的に医療データを収集する事で多くの犬の生涯にわたる健康状態をリサーチし、ガン発生や治療に関する研究を行うというものです。
現在このゴールデンレトリーバー の生涯研究には3000頭以上の犬が登録されており、すでに数多くの貴重なデータが蓄積されています。
当初はガンの研究のために開始されたプロジェクトだったのですが、それぞれの犬の生涯にわたる健康研究であることから、ガン以外の健康問題についても豊富なデータが収集されています。
モリス動物財団はこの度、ゴールデンレトリーバー の高齢期の認知機能障害と変形性関節症についての研究を開始することを発表しました。
ピュリナ研究所と共同で行う認知機能障害の研究
一般的に認知症という名で知られている高齢期の認知機能障害症候群は、8歳以上の犬の約14%に発症すると言われています。認知機能が低下してしまうことで、今までできていたトイレトレーニングが出来なくなったり、精神の混乱、飼い主との関わりを持たなくなってしまうなど様々な症状が出てきます。
年齢を重ねたゴールデンレトリーバー のデータを、有効に活用する研究の一環としてモリス動物財団は、大手ペットフード メーカーのピュリナ研究所との提携を発表しました。ピュリナ研究所の持つ豊富な資金は、新しい研究を始めるための頼もしい戦力となります。
かねてから犬の認知機能障害症候群の研究を進めたいと考えていたピュリナ研究所との共同研究では、認知機能障害症候群の発生率、有病率、危険因子などについて理解を深めるべく取り組まれています。
現在登録されている飼い主への質問データに、認知機能障害に焦点を当てた項目が追加されるのだそうです。新しい質問項目は、学習と記憶、方向感覚の喪失、社会的な相互作用の変化、睡眠と覚醒のサイクル、粗相の状況、不安行動などに関するものです。
変形性関節炎について医薬品メーカーと共同研究
もう1つの新研究は動物医薬品メーカーのエランコ・アニマル・ヘルスと共同で行う変形性関節症に関するものです。
変形性関節症は、関節軟骨の損傷や変形によって痛みや炎症が引き起こされる疾患です。特にシニア期以降の大型犬に多く見られ、犬の慢性的な痛みの一般的な原因の1つです。多くの場合、診断されるのはシニア期に入ってからですが実際にはもっと早くに発症している可能性があります。
痛みが起きてからでは犬の生活の質も低下してしまうため、早期発見が重要なのですが目立った症状がない段階では困難です。変形性関節症の早期発見はこの研究の大きなテーマの1つです。
エランコ社との研究では登録している飼い主への質問に、歩行、座位、運動への関心などが追加されました。またプロジェクトの協力している獣医師には、研究対象になっている犬の関節可動域の評価、関節の触診、必要に応じてのレントゲン撮影が新たに求められます。
まとめ
ゴールデンレトリーバー の生涯健康を研究している動物財団が、ペットフード メーカーの研究所と提携して認知機能障害症候群の研究、動物医薬品メーカーとの提携で変形性関節症の研究を実施すると発表したことをご紹介しました。
認知症も関節炎も一般的であると同時に、犬の生活の質を大きく低下させ、飼い主への負担も大きくなる疾患です。予防、早期発見、治療のより良い方法が開発されれば犬にも人にもありがたいことです。研究は始まったばかりですが、良い報告を期待したいと思います。
《参考URL》
https://www.morrisanimalfoundation.org/article/the-golden-age-project
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2021-03/maf-maf031721.php
https://www.veterinarypracticenews.com/national-study-to-shed-light-on-canine-oa/