「嫉妬」という感情についての研究
「嫉妬」と言えば、ネガティブな感情であまり良くないものだというイメージがあるかもしれません。しかし、この感情はコミュニティの中の絆やつながりを外部の侵入者から守るために進化したのかもしれないという説もあるそうです。
また他者に対して嫉妬をすることは自己認識に関連していることから、嫉妬は人間に固有の感情だという研究者もいるそうです。しかし、サルや犬が自己認識を持っていることは近年の研究で明らかになっています。
そして何より犬と暮らしている人にとって、犬が嫉妬をするというのはごく当たり前のこととして受け入れられています。過去のリサーチでも犬の飼い主の80%以上が「私が他の犬に注意を向けると吠えたり、引っ張ったりという嫉妬を示す行動をする」と答えています。
この度ニュージーランドのオークランド大学の心理学の研究チームが犬の嫉妬行動を調査するための実験を行い、その結果を発表しました。
ぬいぐるみの犬と筒型の物体で犬の嫉妬を観察
実験に参加したのは18頭の家庭犬(オス7頭、メス11頭、年齢の中央値4.6歳)とその飼い主でした。
実験は次のような手順で行われました。実験者が犬のリードを持ち、飼い主は少し離れた位置に座ります。飼い主の側には、とてもリアルで本物の大型犬のように見えるぬいぐるみとフリースを被せた筒型の物体(大きさはぬいぐるみと同じくらい)が置かれています。
このような状態を見せた後に飼い主の周りに低いスクリーンを立てて、飼い主の胸から上あたりだけが見えるようにします。
最初にフリースを被せた物体だけが犬に見えるようにして、飼い主はスクリーンの陰でぬいぐるみの犬を可愛がる仕草をします。次にぬいぐるみだけが犬に見えるように設置して、飼い主はスクリーンの陰で筒状の物体を可愛がる仕草をします。
それぞれのパターンで、犬がどのような行動を示したかが観察されました。
犬が示した嫉妬行動
最初に飼い主の隣に犬のぬいぐるみがあることを犬に示した時には、犬たちは特に強い反応は示しませんでした。
飼い主がぬいぐるみを可愛がる仕草をした時には、多くの犬がリードを強く引っ張って飼い主の側に行こうとしましたが、フリースを被せた円筒を可愛がる仕草の時には、犬が飼い主の側に行こうとする力ははるかに弱いものでした。
犬が嫉妬を示す行動を見せたことは過去のリサーチの通りでしたが、研究者はこの実験で犬の嫉妬行動が人間に似ている点を3つ発見しました。
- 犬が自分のライバルと認識した相手と飼い主が関わり合った時に嫉妬する
- ライバルと認識した相手が飼い主の側にいるだけでは嫉妬しない
- スクリーンでライバルの姿が見えなくても、飼い主の行動から推測して嫉妬する
このことから犬はライバルの単純な存在に対してではなく、飼い主と社会的な関わり合いを持つことが、好ましくないのだと認識していることが分かります。また実際に目に見えていない行動を頭の中で想像して、その対象にさえ嫉妬をすることが示されました。
実験の結果は犬が嫉妬することを裏付けるだけでなく、上記のような複雑な認識を持っていることを示す初めてのものとなったそうです。
まとめ
犬は自分にとってのライバルだと思っている相手が飼い主と社会的な関わりを持つことや、飼い主と関わりあっているという想像に対して嫉妬するという実験の結果をご紹介しました。犬の感情はかつて考えられていたよりもずっと複雑であるという事実が、また1つ明らかになったようです。
「犬が嫉妬する?当たり前でしょう」と思う飼い主さんは多いと思いますが、このような研究は動物の認知へのより深い理解や、人間と動物の心にどの程度の類似性があるのかを知るために重要なものです。
また飼い主としては、犬の感情についての新しい研究の成果を知っておくことは愛犬の福祉のためにも大切です。犬の感情を擬人化して間違った解釈をしたり、犬の感情を考慮しないトレーニング方法は犬にとって不幸なことだからです。
《参考URL》
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0956797620979149
https://www.psychologicalscience.org/news/releases/2021-april-dogs-jealous.html