人々がペットを手放さざるを得ない理由の社会的背景を探る
多くの国において、犬や猫をはじめとするペットの飼育放棄は大きな社会問題の1つです。
ペットの飼育放棄と言うと身勝手な理由で、無責任にペットを捨てたり施設に持ち込む例がイメージされますが、カナダの以前の調査では経済的事情や住宅事情など飼い主側のやむを得ない理由が一般的であることが分かっています。
カナダのブリティッシュコロンビア大学の動物福祉科学の研究チームとブリティッシュコロンビア動物虐待防止協会が共同で、同協会にペットを持ち込んだ人の放棄理由と、地域別に人々がどのような事態に困窮しているかを照らし合わせて、両者の関連を調査した結果を発表しました。
飼い主である人間の困窮はペットの福祉を脅かす
飼い主の都合でペットを手放さなくてはならない理由のベースには、飼い主が社会的にひ弱な存在になってしまうということがあります。
研究チームは社会的な脆弱性の4つの要因『収入の安定性、住居の安定性、状況(健康、学歴、言語)の安定性、民族文化的構成』がペットを手放すことと関連があるかどうかを、都市部エリアと郊外エリアという地域的な特色も加味して調査しました。
収入の安定性は調査対象の社会の中で、雇用されている、または定年を迎えた人の割合から算定。
住居の安定性とは、持ち家の割合、賃貸住宅の割合、一人暮らしの割合、過去5年間に引越しをした人などの割合から算定。
状況の安定性とは、義務教育を終えていない人々、失業者、大規模な修理が必要な家屋の数などによって算定。
民族文化的構成は、最近の移民の人々、海外で生まれた人々、公用語(英語または仏語)を話さない人々などの割合。
調査の結果は、これらの要因が実際にペットを手放すさまざまな理由に関連していることを示し、地域ごとにその傾向も違っていました。例えば都市部で人口の多い地域では民俗文化的構成に多様性が有り、ペットを手放す理由に経済的な事情、健康上の問題、住居の問題などが多く関連していたようです。
住居の問題と飼育放棄の関連は、賃貸住宅の割合が高い地域ではペット可物件を見つけられない、近所からペットに関する苦情が来るなどが代表的なもの。どのような事情であれ、飼い主が困窮している状態はペットの福祉を大きく損ねるといういうことが改めて浮き彫りになりました。
社会問題とペットの飼育放棄の関連を調査することの意味とは
雇用、収入、住宅と言った社会的な問題と動物保護施設に引き取られるペットの関連を調査することにはどのような意味があるのでしょうか。動物虐待防止協会が関わっている調査ですから、ペットの飼育放棄の予防策を立てるために使うという意味はもちろんあります。
また人間の福祉はペットの福祉と強くつながっているため、地域ごとの飼育放棄の事情が明らかになれば、人々への援助策にも役立つ可能性があります。例えば経済的に困窮している人向けの食料品配布所でペットフード も提供する、ペット可の高齢者向け住宅を増やすなどです。
データはまた、成犬、成猫、子犬、子猫、その他小動物で保護施設への持ち込みの事情が異なっていることも示していました。子犬や子猫の持ち込みは状況的安定性が低い地域で多く見られました。
これは望まずに生まれてしまった犬や猫を保護施設に連れてきているということですから、行政が提供している低価格(または無料)の避妊去勢手術を当該地域向けに強くアピールすると言った対策にも活かせます。
まとめ
カナダのブリティッシュコロンビアにおける、飼い主に関わる社会的な問題とペットの飼育放棄の関連を調査した結果をご紹介しました。
ペットの飼育放棄が増加すれば対策として税金が投入されますので、これはペットを飼っている人だけでなく社会全体の問題です。しかし飼育放棄を減らすために施設での引き取り拒否や終生飼育の呼びかけを行っても、原因となっている問題が解決されないことには意味がありません。
ここで紹介した調査では、社会の中の様々な問題とペットの飼育放棄がどのように関連しているかが詳しく分析されており、対策を立てるためにとても有効だろうことが見て取れます。
世界中が不安定な状態になっている現在では、いつ誰が社会的にひ弱な存在になってしまっても不思議はありません。人間の福祉と動物の福祉はつながっているものだという前提で対策を立てるための調査が実施されることは、社会全体に大きな意味があります。
外国のこのような調査や研究に対して「うらやましい」と思う気持ちは有りますが、どのようにして問題をあぶり出して行くのだと知ることも大切です。
《参考URL》
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2021.656597/full