てんかん発作のための介助犬
犬が人間の病気を察知して介助に役立てている例があります。てんかんの持病がある人の発作が起きる15〜20分くらい前に前兆を察知して患者本人または周りの人に知らせる犬もその1つです。
てんかんは発作を繰り返す脳の病気です。発作には痙攣や意識喪失を伴う場合があり、周囲に対処できる人がいない時や、倒れると怪我のおそれがあるような場所で発作が起きるとたいへん危険です。このような事態を恐れて患者の日常生活に支障が出てしまうことも少なくありません。
犬が発作を予測できると、事前に安全な場所に移動して安静にしたり、助けを呼んでおくことが可能になり、てんかんの患者さんの大きなサポートになります。
しかし現在てんかん発作の介助犬として訓練されているのは、発作が起きた時点で助けを呼ぶ、電話や薬を持って来るなどの介助で、発作の予測ではないそうです。その理由は、犬が何をもっててんかん発作を予測しているのかが判っていないため、訓練する方法も確立できないからです。
イギリスのクイーンズ大学ベルファストの研究チームは家庭犬を対象にして、てんかん発作の予測要因を調べる実験を行いその結果が発表されました。
匂いのサンプルと家庭犬を対象にして実験
飼い主のてんかん発作を予測できる犬が何を手がかりにしているのかは諸説あり、今のところ行動や表情の微妙な変化、匂いの変化などが挙げられています。
研究チームはてんかん発作によって体内に放出された化学物質が汗や唾液の匂いを変化させることが、犬にてんかんの前兆を気づかせるのではないかと仮説を立てました。
匂い以外の他の要素によってハンドラーに警告を送ることを避けるため、犬は介助の訓練を受けたことのない普通の家庭犬19頭、犬の飼い主はてんかん発作を起こしたことがない人が実験に参加しました。
匂いのサンプルはてんかんの持病が有る人3名と無い人2名の汗を吸収したパッドが用意され、てんかんの有る人のサンプルは「発作前」「発作直後」「発作の6時間後」の3パターンが採取されました。
実験室に置かれた椅子に飼い主が座り、その側にサンプルの匂いを少しずつ調節しながら放出する特殊な装置が置かれました。犬は飼い主と同じ部屋に入り、装置からそれぞれのサンプルの匂いが放出された時にどのような行動を取ったかをビデオ撮影して観察したのです。
犬は発作時の匂いにどんな反応を見せた?
上記のように、犬たちは「発作前」「発作直後」「発作6時間後」「てんかん無し」の4パターンの匂いサンプルでテストされました。犬たちの行動で指標となったのは「飼い主の側に居た時間」「飼い主とのアイコンタクトの時間」「飼い主にピッタリと密着していた時間」の3つでした。
飼い主の側に居た時間は、発作前とてんかん無しのサンプルでは差がありませんでしたが、発作直後と発作6時間後のサンプルでは無しの場合と比較して有意に長い時間飼い主の側に居たそうです。
アイコンタクトの時間は、発作に関連する3つのサンプル全てが無しのサンプルよりも長く、飼い主に密着する時間も、発作関連の3つ全てが無しのサンプルよりも長くなっていました。
この実験の結果から、てんかん発作は独特の匂いを伴い、それが犬の行動を変化させるという仮説が支持されました。匂いの具体的な性質まではまだ判っていませんが、この結果は犬にてんかん発作の予測を訓練するための要件を提供できる可能性があります。
研究者は今後の課題として、匂いが犬の飼い主への親和性を高くした理由、匂いへの犬の反応の違いの理由、犬による発作予測は嗅覚の他に電磁変動の感知も有るのかどうか、の3つを挙げています。
犬によって匂いへの反応に強弱があるのは、飼い主と犬の関係性が関連する可能性も述べられています。
まとめ
人間のてんかん発作を事前に予測する犬は、汗などの匂いの変化に反応しているという実験の結果をご紹介しました。
このような研究を基にして、てんかん発作予測の訓練ができるようになると介助犬の幅が広がり持病のある人の生活の質の向上につながります。さらには発作が起きる前の変化を察知できる機器の開発が可能になれば、より多くの人が手軽に恩恵を受けられるようになります。
日本での介助犬の定義では、てんかんは発作後のケアも発作の予測も含まれていません。科学的なデータが増えて、日本でも考慮されるようになって欲しいものです。
《参考URL》
https://www.researchsquare.com/article/rs-199652/v1