ヨーロッパの犬はいつどのように家畜化されたのか?
犬の家畜化の研究は世界各地で数多く行われ、様々な説に分かれています。時期については1万5千年〜3万年前と大きな幅があり、どのように家畜化が始まったのかについても諸説あります。
世界各地の地形や気候はそれぞれ大きく違っているので、犬と人間の関係の成り立ちも土地ごとに違っていると考えるのは自然なことです。
2020年から2021年にかけて、北極圏からアメリカ大陸にかけての犬の起源に関する研究がいくつか発表されましたが、今回は違う地域の犬の起源が調査されました。先ごろドイツのテュービンゲン大学の生物地理学者とスイス、ポーランド、デンマークなどの研究者のチームによって発表されたヨーロッパの犬の家畜化についての調査研究です。
アメリカ大陸の先住民と暮らしていた犬たちは、ヨーロッパからアメリカに人間が移住した時にほとんどが絶滅してしまい、現代のアメリカ大陸にいる犬はヨーロッパの犬の子孫だと言われています。
日本でもイギリスやドイツなどヨーロッパ原産の犬の人気は高く登録数でも上位を占めています。
現代の犬のマジョリティとも言えるヨーロッパ原産の犬の先祖はどのように人間と一緒に暮らすようになったのでしょうか。
遺跡から発見されたイヌ科動物の骨を調査
研究チームはマグダレニア期(1万6千年〜1万4千年前の後期旧石器時代)の遺跡で発見されたイヌ科動物の化石を調査分析しました。この遺跡は現在のドイツ南西部とスイスに位置します。
イヌ科動物の化石は、形態学、遺伝学、安定同位体比などさまざまな方法の組み合わせによって分析されました。またこの分析結果と比較するため、現代の犬に加えてオオカミやキツネなど他のイヌ科動物のデータが用意されました。
化石の分析結果は多くの異なる遺伝子系統に由来していることが判りました。このサンプルから配列決定されたゲノムは、オオカミから現代の犬までの遺伝子の範囲をカバーしており、安定同位体比からは、この動物が食べていた食物はいくつかの限られた種類だったことが判明したそうです。
ヨーロッパの犬の起源の1つが明らかに
このドイツ南西部の遺跡で発見されたイヌ科動物が、現代の犬とオオカミ両方をカバーする遺伝子を持っていたこと、動物が食べていたものが限定されていたことから、マグダレニア期の人間がさまざまな系統のオオカミから成る動物を飼いならし、餌を与えて飼育していたと想定されます。
この結果はヨーロッパの犬の起源の1つはドイツ南西部にあったという仮説をサポートしていると研究者は述べています。1万6千〜1万4千年前にはオオカミはすでに飼いならされて犬として飼育されていたと考えられ、ヨーロッパにおける犬の家畜化のポイントに1つ近づいたと言えるのかもしれません。
このマグダレニア期の犬が食べていたものが限定的であったことは、食事の管理がオオカミを飼いならすプロセスの大切な要因であった可能性も指摘されています。
将来の研究ではより詳細な食事内容の分析、核ゲノムの解読なども含めて、さらに犬の家畜化の歴史を掘り下げていくことが期待されているそうです。
まとめ
ヨーロッパの犬の家畜化の起源について、ドイツ南西部の旧石器時代後期の遺跡で発見されたイヌ科動物の化石から判ったことをご紹介しました。
遺伝子研究や同位体比分析の技術に発達によって、骨や排泄物の化石から膨大な量の情報が読み取れるようになりました。犬の家畜化についての研究もこれらの技術によって大きく進んでいるようです。
北極圏からアメリカ大陸、ユーラシア大陸における犬の家畜化がほぼ同じ時期に始まっているのも興味深いことです。
今後はさらにアジアやアフリカの犬の歴史が明らかになって行くことにも期待が膨らみます。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-021-83719-7