補助犬が医療機関に入れないという問題
盲導犬、聴導犬、介助犬など体の不自由な方を助けるために働いている補助犬は、商業施設や病院その他の公共の場所への入場が国連協定や各国の法律によって許可されています。
しかし実際には多くの施設で補助犬の同伴を拒否される例が後を絶ちません。「衛生上の問題」という理由で補助犬が拒否される例の中でも最も深刻なのは病院などの医療機関です。ユーザーの多くは病院での治療と補助犬のサポートの両方を必要としているからです。
このような問題を受けて、オランダのユトレヒト大学獣医学部の研究者が、犬の足の衛生状態を調査し、その結果を発表しました。
オランダでも補助犬の入場を拒否することは法律で禁止されているにも関わらず、この研究に協力した補助犬ユーザーの81%が過去に1度以上入場を拒否された経験があると回答しており、問題の深刻さが伺えます。
犬の足と人間の靴底の細菌を調査
研究チームは犬の足の裏と人間の靴底にどのくらい細菌が付いているかを調査するため、25頭の補助犬、25頭の家庭犬(普通のペット)の前足の裏、それぞれの飼い主である50人の人間の靴底からサンプルを採取しました。
調査の対象は屋外で一般的なエンテロバクター科の細菌(大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌など腸管感染症の原因になるものが多い真性細菌のグループ)とクロストリジウム・ディフィシル細菌(大腸炎を引き起こす)でした。採取したサンプルから、これらの細菌がどのくらい検出されたかが調べられました。
調査の結果、犬の足は飼い主の靴底よりも検出された細菌が有意に少なかったことが判りました。
エンテロバクター科の細菌では、犬は72%が陰性、飼い主は42%が陰性。クロストリジウム・ディフィシル細菌は犬からは全く検出されず、人間の靴底から1例のみ検出されたそうです。
細菌数そのものも、補助犬家庭犬ともに人間よりも平均30%程度少ないものだったといいます。
研究チームは、一般的な犬の足の衛生状態は人間の靴底よりもはるかに清潔で、靴を履いた人間が入場できる場所に補助犬の入場を禁止する意味はないと述べています。また補助犬に現状以上の衛生対策を設ける必要もないとしています。
日本でも同様の問題が多く報告されている
この研究はオランダでの調査結果ですが、日本においても公共施設や交通機関、病院などで補助犬の同伴を拒んではならないという身体障害者補助犬法があります。
しかし法律として制定されているのにも関わらず、補助犬の同伴が拒否される事例は数多く報告されているそうです。特に医療機関での拒否はユーザーの健康に大きく影響する重大な問題です。
厚生労働省では、補助犬の受け入れへの理解を促すための冊子を発行したり、法改正によって相談窓口の設置などで対応しています。
また日本盲導犬協会などの団体も相談窓口を設けて、盲導犬の同伴を拒否した施設への指導などを行なっています。
補助犬はブラッシングやシャンプーなどの手入れも念入りに行われているのが普通です。この度の研究結果と併せて、衛生上の問題はないということが広く周知されて欲しいと思います。
まとめ
身体の不自由な方をサポートする補助犬の足の裏と人間の靴底の細菌を調べたところ、犬の足は靴底よりも有意に細菌が少なかったということです。そのため衛生上の理由で補助犬同伴を拒否することはおかしいという研究結果をご紹介しました。
この研究は予備研究として発表されていますので、今後さらに、より大きいサンプル数での詳しいリサーチが必要だと研究者は述べています。
研究者はまた、病院などに来る補助犬の数はごく限られており、今回の調査で判った犬の足の衛生状態と併せて補助犬によって院内が汚染されるとは考えられないとしています。
治療のために訪れた医療機関で、生活のために必要な犬という補助者が拒否されるというのはあってはならないことです。普段はあまり考えない問題かもしれませんが、多くの方に知っていただきたいと思います。
《参考URL》
https://www.mdpi.com/1660-4601/18/2/513
https://www.uu.nl/en/news/paw-hygiene-no-reason-to-ban-assistance-dogs-from-hospitals
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/hojoken/index.html
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000177003.pdf