盲導犬チャリティ団体による研究プロジェクト
イギリスのチャリティ団体『ガイドドッグス』は盲導犬の繁殖、育成、啓蒙活動、利用者支援など盲導犬に関わるほぼすべてのことに携わっている団体です。
同団体は先ごろ『ボーン・トゥ・ガイド』と名付けられた大規模な研究プロジェクトをスタートさせ話題を集めています。
このプロジェクトは団体の研究者を中心にノッティンガム大学や大手ペットフード メーカーと共同で運営されています。
盲導犬育成に遺伝学的なデータを取り入れ、犬と人間両方の福祉を高めようというのがプロジェクトの目標ですが、具体的にどのような研究がされているのでしょうか。
繁殖犬や子犬の遺伝子検査
ボーン・トゥ・ガイドは長期的な研究プログラムです。プログラムの初期段階では、同団体の繁殖犬や生まれた子犬からゲノムデータを収集していきます。目標としているのは3,000頭分の犬の全ゲノム配列のデータベースの作成だそうです。
同団体は、各犬の生涯を通じての行動を広範囲に記録し、健康状態についても追跡システムを備えています。3,000頭分の全ゲノム配列のデータと各犬の行動と健康のデータを人工知能や機械学習を利用して組み合わせ、ゲノム配列と行動や病気のパターンとの関係を特定していくことを目指しています。
現在すでに発症に関連する遺伝子が判明している遺伝性疾患はもちろんのこと、アトピー性皮膚炎のような複雑な病気や注意力散漫などの望ましくない行動特性の遺伝的要素を特定できれば、それらの要素を持つ犬を繁殖や育成訓練からあらかじめ外すことができます。
盲導犬としての仕事を始めてから病気が発症すれば、利用者と犬の両方に負担がかかります。また行動面での適性が低い犬に育成トレーニングを施すことは、資源と時間の無駄であるだけでなく犬の福祉をも低下させてしまいます。
このように遺伝情報に基づいて盲導犬としての適性を判断できれば、利用者と犬さらに育成者にとっても大きなメリットとなるでしょう。
研究プロジェクトが開く可能性の数々
ボーン・トゥ・プログラムによって得られた研究上の成果は、イギリスの盲導犬だけでなく世界中の使役犬育成組織での利用が期待できます。使役犬ではない一般の家庭犬にとっても、健康上の遺伝的要素を避けて繁殖に活かすことは大きな意味があります。
また、このプロジェクトで使用された人工知能や機械学習の手法は、人間の遺伝学や医療の分野にも応用できます。技術的な面だけでなく、ゲノム情報と健康や行動上の関連は人間や他の動物の遺伝学の理解にも役立ちます。
ゲノム情報だけなら過去にも大規模なデータベースはありますが、そこに健康と行動上の生涯データを組み合わせたものは例がありません。この研究プロジェクトのデータベースが構築された暁には、世界中の企業や研究者からの無料アクセスを受け付ける予定だそうです。
まとめ
イギリスの盲導犬チャリティ団体が、犬のゲノムデータと健康や行動上の情報を組み合わせた大規模データベースを構築し、繁殖や育成プログラムに活かしていくための研究プロジェクトをスタートさせたという話題をご紹介しました。
ゲノムデータの分析というと難しくて取っ付きにくい印象を持ちがちですが、このプロジェクトのようにデータが具体的に活かされていく内容を知ると理解がしやすくなりますね。
《参考URL》
https://www.guidedogs.org.uk/born-to-guide/