犬の進行性網膜萎縮症
フィンランドのヘルシンキ大学の獣医生物科学の研究者チームによって、犬の進行性網膜萎縮症に関連すると考えられる遺伝子の変異が発見され、そのための遺伝子検査も開発されたという発表がありました。
進行性網膜萎縮症は、目の奥にある網膜が変性萎縮していく進行性の疾患です。網膜は光を映像を感じ取るという視覚における重要な役割を果たしており、これが変性することで視力の低下〜失明に至ります。
過去の研究から、網膜萎縮症に関連する遺伝子の変異は複数発見されています。この度発表されたヘルシンキ大学の研究ではフィンランド原産の犬を対象にして、網膜萎縮症を引き起こす新しい遺伝子変異が特定されました。
フィンランド原産の2犬種の遺伝子研究
網膜萎縮症は100以上の犬種で報告されています。この研究では犬のDNAバンクから1000頭以上のラポニアンハーダーとフィニッシュラップフンドのデータが使用されました。この2犬種はどちらもフィンランド原産で、トナカイの牧畜犬として知られています。
過去の研究ではラポニアンハーダーの網膜萎縮症に関連する2つの遺伝子変異が特定されましたが、その2つだけではラポニアンハーダーの全ての症例を説明することができませんでした。
今回発見されたのはIFT122遺伝子の変異体です。IFT122遺伝子は網膜の光受容細胞に置いてオプシンというタンパク質の輸送に関連しています。変異体はこの輸送を妨害し網膜の変性をもたらします。
このIFT122変異体を持っている個体の割合は、ラポニアンハーダーでは28%、フィニッシュラップフンドでは12%でした。
遺伝性疾患を減らしていくために
研究チームはこの発見に基づいて、病気の診断とブリーディングに役立つ遺伝子検査も開発しました。
この遺伝子検査によって、その犬の網膜萎縮症に関連している遺伝子変異体が以前に発見されたものも含めて、どの種類であるかを区別できるようになりました。これによって病気の進行や予後の監視、治療法にも違いが生じる大きな進歩です。
進行性網膜萎縮症を発症する犬は、この病気に関連する遺伝子変異体を両方の親から引き継ぎます。遺伝子検査をすることで、変異体のキャリア同士の交配を回避し、失明に至る深刻な遺伝病を防ぐことができます。
人間にも網膜色素変性症という犬の網膜萎縮症とよく似た難病があり、IFT122遺伝子は人間の症例についても説明できる可能性があるのだそうです。世界中で200万人近くが罹患している病気で効果的な治療法が今のところ無いため、IFT122の研究に期待が寄せられます。
まとめ
犬の進行性網膜萎縮症に関連する新しい遺伝子変異が発見され、遺伝子検査の方法も開発されたという報告をご紹介しました。
この研究の筆頭著者は犬の網膜萎縮症の遺伝子治療の開発をする研究グループに参加したそうです。さらに他の眼疾患に関連する遺伝子の研究も取り組まれており、中でも緑内障や角膜ジストロフィの遺伝的背景の調査が順調だそうです。
遺伝性の疾患の研究を紹介する時にいつも付け足すことですが、遺伝子検査が開発され遺伝病が確実に予防できる方法が分かって来たからには、それを確実に活かさなくてはなりません。
遺伝子検査を行わずに繁殖をする業者から犬を購入しない、遺伝子検査と知識の伴わない素人繁殖は行わないなど、一般の飼い主の意識が重要です。
《参考URL》
https://link.springer.com/article/10.1007/s00439-021-02266-3
https://www2.helsinki.fi/en/news/life-science-news/a-new-blindness-gene-uncovered-in-a-canine-study