犬が飼い主を噛むときの心理以外の理由について
動物とはいえ、一般的に犬は人間の3~4歳の子供と同じくらいの知能があると言われています。その犬が理由もなく、日頃、食事などの世話をしてくれる飼い主さんに対して「噛みつく」という攻撃行動をとることはありません。
飼い主さん側からすれば「突然に噛まれた」と感じたとしても、犬からすれば必ず「攻撃」しなければならない理由があったはずです。このように、何らかの「要因」や「心理」があり、その結果として「行動」があるのなら、動物としては「正常な行動」と言えます。
ですが、脳に何らかの疾患が生じた結果、日頃からずっと目がギラついていたり、執拗に自分のしっぽに執着したり、何の刺激もなくいきなり吠え出してそれが延々と長時間続くといったような、本来の犬の行動からは明らかに逸脱した異常な行動を「異常行動」といいます。
こういった「異常行動」の最中に飼い主さんを噛む、というのは、犬の心理を理解して解決できることではなく、獣医さんの治療が必要です。
犬が飼い主を噛むときの意外な心理
1.縄張り性攻撃行動
例えば、犬がソファの上を自分の縄張りだと認識していて、そこを飼い主さんや飼い主さんの家族がそばを通っただけで「自分の場所を奪われる!」と感じた犬が人に噛みつく、と言った状況のときには、犬の心理として縄張り性攻撃行動が考えられます。
2.恐怖性攻撃的行動
飼い主さんが大声を出したり、力ずくで犬を抑えて動きを制限しようとしたりしたときなど、犬が「怖い!」と感じたとき、その恐怖から逃れるために「噛む」という行動に現れる心理状態で、恐怖誘因性攻撃行動とも呼ばれます。
3.食物関連性攻撃的行動
自分が食べている食事やおやつを取り上げられると思った犬が、自分の食料を確保するために反射的に攻撃するときの心理で、食物関連性攻撃行動と言います。
4.葛藤性攻撃行動
何かをしたいのに、それができなくてイライラする…というような心理状態のときに攻撃的になるのを葛藤性攻撃行動といいます。例えば、飼い主さんに甘えたいけれど、頭を触られたくないなど、犬の心の中に何かしら相反する欲求があるときに、どうしていいのかわからず、攻撃行動をとってしまう、というような状況です。
5.所有性攻撃行動
自分のおもちゃなど、愛犬が自分のものだと執着している物を奪われるかもしれないと脅威を感じている心理状態のときに現れる攻撃行動です。
犬が飼い主を噛むときの対処法
愛犬との信頼関係を築く
まず、愛犬が飼い主さんに対して恐怖心を抱いているようなら、その恐怖心を消し去るよう、あらゆる努力をします。そして、愛犬から絶対的な信頼を得られるように心を込めて世話をし、躾をし、愛情を注ぎます。その過程で、愛犬の感情の動きを観察し、何をされたら喜び、何をされたら嫌がるかを把握しましょう。
人間が好きな人が喜ぶと自分もうれしくなり、好きな人が嫌がるとわかれば嫌がることはしないようにしようと思うのと同じように、犬も飼い主さんが好きになれば、飼い主さんが喜ぶことをしようとしますし、飼い主さんがダメということを守ろうとします。
そして、愛犬が自分の意思を飼い主さんは正確に理解してくれると信頼し、また飼い主さんの意思も自分が理解できていると自信を持てば、より深く飼い主さんを信頼するようになります。
愛犬の気持ちを理解する
まず、愛犬が飼い主さんを噛もうとするとき、あるいは噛んだとき、どんな状況かを冷静に分析してみます。食事を食べている最中や、リラックスしているときだったでしょうか?それとも、愛犬が何かを咥えて、それを取り上げようとしたときでしたか?そして、その状況のとき、ご自身だったらどんな気持ちになるかを考えてみます。
例えば、お気に入りのものを手に握っているとき、誰かにそれを強引に奪われたらどう思いますか?取られたくない、渡したくない、と思うはずです。あまりに執拗に追い掛け回されて、力ずくで大切なものを取り上げられると切羽詰まれば、反撃したくもなるでしょう。
けれど、もし代わりのものをもらえたり、たとえ一度は取り上げられても、すぐに返してくれると知っていたりしたなら、穏便にその大切なものを渡すことができるはずです。
このように、愛犬が「噛む」という行動で、飼い主さんに対して発している「意思」を理解し、「噛まなくても、あなたの伝えたいことは理解できるよ」と行動で示すことで、愛犬は「噛む」という方法ではなく、「前足でひっかく」「吠える」「鼻を鳴らす」など、別の方法で飼い主さんに自分の意思を伝えようとします。
大切なのは、「嫌がることをしない」「愛犬のしたいことを好きなようにさせる」のではありません。「嫌がることをしても、そのあとでご褒美を与え、愛犬の我慢を正当に評価する」こと、「ダメなものはダメだと徹底的に教え、それを覚えたらきちんと褒めること」です。
専門家に相談する
とはいえ、犬にはそれぞれ本来、もって生まれた気質もあります。また、あまりにも長い間、人間と意思の疎通ができなかったため、犬自身の心に深い傷を負い、人間に対して強い不信感を持ってしまった場合などは、やはり、専門家に相談しなければ、改善できない場合もあります。
すべての獣医さんが動物の行動に精通しているわけではないので、かかりつけの獣医さんに相談し、動物の問題行動のスペシャリストを紹介してもらうか、「獣医行動診療科認定医」の資格を持つ獣医さんに直接、アポイントメントをとって相談しましょう。
まとめ
日本には、「飼い犬に手を噛まれる」という諺があり、辞書によると「日頃から可愛がり、面倒を見てきた者からひどく裏切られたり、害を受けたりすること」とあります。諺になって言い伝えられるほど、昔の人も愛犬に噛まれると心も体も深い傷を負っていたのでしょう。
しかも、今は番犬などの使役犬としてではなく、家族の一員として慈しんで育てているのですから、現在の飼い主さんの方がずっと深く傷つくはずです。さらに言うと、深く傷つく、ということは深い愛情があってこそです。そして、愛犬が飼い主さんを噛むというのは人間に対する犬の意思表示です。
犬の心理的な原因で飼い主さんを噛むのであれば、犬の意思を理解し、受け入れて「噛む」という方法以外でも意思を通じ合えるようにすれば、愛犬が飼い主さんを噛むことはなくなるはずです。
そのゴールにたどり着くまで、長い時間や金銭が必要かも知れません。けれども、心が通じ合い、深い絆で結ばれた家族の一員となるべく、愛犬を幸せにできるのは飼い主さんだけです。どうか、あきらめず、逃げず、放り出さずに「飼い主を噛む」という問題行動を解決できるように、愛犬と向き合ってほしいと切に願います。