1.股関節形成不全
骨盤の溝と太ももの骨の接続部分にトラブルが起こる
股関節形成不全とは、成長する過程で股関節が正常に形成されないというトラブルです。股関節は骨盤の溝である「寛骨臼(臼蓋)」に、太ももの骨の丸くなっている先端の「大腿骨頭」がはまって形成されています。成長過程で臼蓋の溝が浅すぎたり大腿骨頭が変形していたりすると、両者がうまく噛み合わず歩行や運動に症状が現れます。
代表的な症状は「モンローウォーク」
股関節形成不全の代表的な症状は「モンローウォーク」と呼ばれる腰を振った歩き方です。ハリウッド女優マリリン・モンローが注目されるきっかけとなった映画で見せたセクシーな歩き方です。
その他の症状には
- 横座りをする
- 両脚を突っ張るように歩く
- スムーズに立ち上がれない
- ウサギのように後脚を同時に使って走る
- 立っている時に後ろ足の着地点が狭い
- 上半身は筋肉質で下半身は痩せてくる
などがあります。
遺伝要素が強く大型犬に見られやすい
股関節形成不全は遺伝的な要素が強いトラブルで、お父さん犬お母さん犬の両方に股関節形成不全がある場合、子犬の股関節にトラブルが見られない確率は7%ほどしかないと言われています。しかし先天的な要素だけではなく、成長期の栄養の偏り、摂取カロリーの過多や運動など後天的な要因もあると考えられています。
股関節形成不全は
- ラブラドールレトリバー
- ゴールデンレトリバー
- バーニーズマウンテンドッグ
- セントバーナード
- ジャーマンシェパード
- ロットワイラー
など、体重が重く骨関節に負担が出やすい大型の犬種に多いトラブルです。
2.膝蓋骨脱臼
「膝のお皿」がズレてしまうトラブル
膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)とは、膝のお皿と呼ばれる「膝蓋骨」が正常な位置からずれてしまった状態のことです。「膝蓋骨脱臼」とちょっと堅苦しい名称であるため、膝蓋骨を示す解剖用語の「パテラ」という通称が定着しています。
パテラの症状はその重症度による
膝蓋骨脱臼は4つの段階に分けられ、脱臼の程度によって何の症状も見られない場合もあれば手術を要する場合もあります。
グレード1
グレード1ではほとんど無症状で、生活の中で脱臼が起こることもほぼない状態です。激しい運動の後にスキップや足を上げるなど、些細な異変が見られることもあります。
グレード2
グレード2は日常的に脱臼を繰り返している状態です。脱臼時に痛みで鳴いたり、足を上げる異変が見られることがあります。脱臼しても自力で戻せることもあり、膝のお皿をはめるために後脚を不意に伸ばす仕草が見られることもあります。日常的に脱臼を繰り返して関節炎を起こしたり、膝のお皿を支える靭帯が伸びてしまったりする恐れがあります。
グレード3
グレード3は常に脱臼している状態です。人が指でお皿を戻すと簡単にはまりますが、手を離すと外れてしまいます。
膝のお皿が外れて捻れている状態なので、膝を真っ直ぐ伸ばすことができず足を引きずるなど歩行に異変が見られます。腰を丸めて内股で歩くようになることも多く、内股なので腰を振っているように見えることもあります。大腿骨や脛骨など膝に近い部位にある骨の変形などが起こります。
グレード4
グレード4では脱臼状態で硬直してしまうため、3のように外れた膝のお皿を元の位置に戻すこともできなくなった状態です。膝を伸ばすことができず歩行困難になることもあります。大腿骨や脛骨の変形が起こり、後肢が上手く使えなくなり筋肉の萎縮が起こります。関節の脱臼、靭帯の断裂が起こりやすくなります。
原因は「先天的な体質」や「後天的な膝への高負荷」など
膝蓋骨脱臼は生まれ持った体質によって膝蓋骨を支える靭帯が弱いなどの先天的な原因もあれば、高い場所からの転落や外傷など膝に過度なダメージを受けたことによる後天的な原因があります。また滑りやすい床によって膝に負荷がかかることも要因になると言われています。
なりやすい犬種には
- トイプードル
- ポメラニアン
- チワワ
などの小型犬が多いのですが、
- 柴犬
- ゴールデンレトリバー
- グレートピレニーズ
など中型犬以上の犬種にも起こります。
3.老化による股関節の痛み
犬も高齢化の時代に!
老化によって筋力が衰えると骨や関節の運動を支える力が弱くなるため、股関節にも痛みが出ることがあります。獣医学の発展によって長生きできるわんちゃんが多くなった反面、愛犬の老化を顕著に感じるようにもなりました。
股関節の痛みをかばって腰を振って歩くことも
老化によって筋肉の柔軟性が低くなり、関節の可動域も狭くなって膝が上がりにくくなります。そうすると歩行時に歩幅が狭くなり、トボトボ歩いているように見えることも。徐々に股関節の可動域も狭まり、立った時に後脚の幅も狭くなりやすいです。股関節に痛みが出てくると、かばおうとして腰やお尻を振って歩くようになることがあります。
運動しすぎもしなさすぎもNG!老化を穏やかにするサポートを
老化現象は自然の摂理ですので仕方のないものではありますが、愛犬の健康寿命をできるだけ長く保って上げるために適切な老化対策が重要です。
- 肥満に気を付ける
- 無理のない程度に運動を続ける
- 床で滑らないようカーペット等を敷く
など、愛犬への負担を軽減しつつ老化を緩やかにするサポートをしてあげましょう。愛犬に高負荷を与えるのは危険ですが、筋肉は使わないとどんどん衰え、関節の可動域も狭まっていきます。愛犬の体調に合わせた運動を続けることが大切です。
まとめ
今回は「犬が腰を振って歩く時の原因」について解説いたしました。
- 股関節形成不全
- 膝蓋骨脱臼
- 老化による股関節の痛み
この3つはその症状に「腰を振って歩く」ことがあります。どれも脚にまつわるトラブルですが起こる場所や要因が違ってきますので、獣医さんによる正確な診断が必要になります。
そのため腰やお尻を振って歩くことが気になったら一度受診してみると安心です。そして愛犬の歩行の異変に気付くためには、愛犬の「いつもの歩き方」を把握しておくことも大切です。