人と動物が共通に感染する病気
人獣共通感染症とか動物由来感染症という言葉をご存知ですか。これらは動物から人へ、またはその逆へ感染する病気のことです。
あらゆる動物が対象になりますが、特に犬の飼い主さんに知っておいて欲しい、代表的な犬と人の共通感染症を紹介します。
犬と人の共通感染症
1. 狂犬病
病原体
狂犬病ウイルス
関係する動物
全ての哺乳類
感染経路
咬まれる
動物の症状
凶暴になり見境なく咬みつく。全身の筋肉が麻痺する。致死率100%
人の症状
- 潜伏期間は3日~3ヵ月。発症後は様々な神経症状。致死率100%
- 発症前に有効なワクチンあり
予防法
- 飼い犬の登録及び1回/年の予防接種(法定)
- 狂犬病発生地域への旅行前にワクチンを接種
2. パスツレラ症
病原体
パスツレラ・ムルトシダ
関係する動物
犬、猫
感染経路
咬まれる、引っ掻かれる、飛沫感染
動物の症状
稀に気管支炎等を発症。ほとんどは無症状
人の症状
傷口が熱を持ち腫れと痛みが出る
予防法
爪切り実施と、咬まれる引っ掻かれるような接触の回避
3. カプノサイトファーガ感染症
病原体
カプノサイトファーガ・カニモルサス
関係する動物
犬、猫
感染経路
咬まれる、引っ掻かれる
動物の症状
ほとんど無症状
人の症状
発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛。重症化で敗血症、髄膜炎を発症し死に至る事あり
予防法
咬まれる引っ掻かれるような接触の回避
4. コリネバクテリウム・ウルセランス感染症
病原体
コリネバクテリウム・ウルセランス
関係する動物
犬、猫、家畜
感染経路
感染動物との接触、飛沫感染
動物の症状
くしゃみ、鼻水、めやになど風邪のような症状や皮膚の化膿など
人の症状
風邪のような症状の後、咽頭痛、咳が始まりジフテリアに似た症状。死に至る事あり
予防法
- 発症動物との接触回避と手洗い
- 成人用ジフテリアトキソイド等予防効果のあるワクチンあり
5. ブルセラ症
病原体
ブルセラ・カニス
関係する動物
犬
感染経路
流産胎児や排泄物、尿や精液との接触、飛沫感染
動物の症状
オスは精巣炎、精巣上体炎。メスは胎盤炎、死産、流産
人の症状
発熱、悪寒、倦怠感など風邪のような症状
予防法
汚染物との接触回避及び消毒と、流産した犬の受診
6. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
病原体
SFTSウイルス(マダニが媒介)
関係する動物
犬、猫、野生動物
感染経路
体液への接触
動物の症状
発熱、白血球減少症、血小板減少症、食欲消失など
人の症状
発熱と消化器症状が主。倦怠感、リンパ節の腫れ、出血が出る事もあり。致死率は6~30%
予防法
愛犬へのマダニ駆除及び予防と、野生動物との接触回避
7. レプトスピラ症
病原体
レプトスピラ
関係する動物
犬、齧歯類
感染経路
尿の接触
動物の症状
犬は腎炎等、齧歯類はほとんど無症状
人の症状
発熱、出血、黄疸、腎障害など
予防法
- 犬のワクチン接種
- 生活環境を清潔にし乾燥させる(この菌は乾燥に弱い)
- 汚染可能性のある水辺には近づかない(台風後は高リスク)
8. 皮膚糸状菌症
病原体
糸状菌(カビの一種)
関係する動物
犬、猫
感染経路
感染動物との接触
動物の症状
脱毛、表皮剥離、皮膚の肥厚など症状は多様。無症状のこともあり
人の症状
動物の症状に加え、痒みと共に円形・不整形の白っぽい輪や小さい水泡ができる
予防法
感染動物の隔離、治療と、室内の念入りな掃除
9. エキノコックス症
病原体
エキノコックス属条虫
関係する動物
キツネ、犬、稀に猫、野ネズミ
感染経路
排泄物中の虫卵の経口感染。犬は、中間宿主である野ネズミの捕食
動物の症状
キツネ、犬はほとんど無症状
人の症状
約10年間は無症状。発症後は肝腫大、腹痛、黄疸、肝機能障害など
予防法
- 国内感染地の北海道ではキツネ、犬との接触、汚染リスクのある沢の水等の摂取回避
- 飼い犬の野ネズミ捕食防止
まとめ
人の健康を守るためには、人と関わりを持つ動物や環境も等しく健全であることが重要であるというOne healthという考え方があります。この中には、人獣共通感染症や薬剤耐性菌の対策なども含まれます。これらの問題を改善するために飼い犬、動物病院、人の病院の3者を仲介できるのは飼い主さんだけです。必要な情報を必要な相手に積極的に伝えることで、One healthに協力していきましょう。