理由①人畜共通感染症の危険性
犬とキスすることで起こるトラブルとして、特に注意しなければならないのが人畜共通感染症です。「ズーノーシス」と呼ばれることもある人畜共通感染症は、その名の通り病原体やウイルスが犬などの動物を介して人間にも感染する疾病です。
特にキスなどで粘膜の接触が起きたり、ウイルスが排出された糞便に触れたりすることで感染するケースが多いとされています。
パスツレラ症
約75%の犬の口腔内にいるパスツレラ・マルトシダという細菌によって、引き起こされる感染症。皮膚への感染や呼吸器系疾患をはじめ、敗血症や髄膜炎、骨髄炎などの重篤な症状も確認されています。
サルモネラ症
サルモネラ菌という名前を聞いたことがあるという人も多いと思いますが、それによって起こるサルモネラ症も犬から人に移ることがあります。主な症状は胃腸炎ですが、乳幼児や高齢者、病後など免疫力が低下している人の場合は重篤な症状や合併症を引き起こす可能性もあるので十分に注意が必要です。
トキソプラズマ症
トキソプラズマという原虫によって引き起こされるトキソプラズマ症は、健康な成人の場合無症状のことも多いとされていますが、妊娠中の人は注意が必要。妊娠中にトキソプラズマ症に感染すると胎児に感染し流産や早産、先天性疾患を引き起こすことがあるとされているのです。
カプノサイトファーガ感染症
8割近くの犬の口腔内に存在する常在菌でありながら、人が感染すると発熱や嘔吐、頭痛などの初期症状から敗血症や髄膜炎なども引き起こす恐れがあります。
特に高齢者や病気治療中の人は注意が必要です。
理由②不衛生、アレルギーの発症
犬とキスをすることで、上記で紹介したような重大な人畜共通感染症などの疾病が引き起こされる心配があります。しかし、それ以外にも犬の口内に繁殖する雑菌に粘膜が触れることで、細菌が繁殖して思わぬトラブルを招いてしまう可能性も。
犬は散歩で地面や草のにおいを嗅ぐことが多く、その際に寄生虫や回虫などに感染することもめずらしくありません。また、犬の口内に溜まった歯垢や歯石には常在菌を含めた口腔内細菌が繁殖しています。高い殺菌能力を持つ犬にとっては無害な菌であっても、人体にはなじみのない細菌が移ることで繁殖してしまうこともあります。
それによって皮膚疾患や嘔吐、下痢などの症状を引き起こすこともあるので気をつけなければなりません。また、近年ではマダニに噛まれてSFTSウイルスに感染した犬から飼い主にも感染が及んだ例が報告されています。
また、犬の唾液や皮脂腺から出たたんぱく質によって、犬アレルギーが引き起こされることもあります。一緒に生活している程度であれば問題なかったにも関わらず、粘膜を通した濃厚な接触によってアレルギー症状が出るようになってしまうこともあるようです。
ただし、犬アレルギーについては小さな頃から接触していることで、アレルギーが起こりにくくなるという研究結果もあるため正確なことについては今後も注目していきたい分野です。
理由③噛まれて怪我をする
犬とキスをするべきでない最も身近な理由が、犬に噛まれることで起こる怪我です。愛犬と飼い主さんのスキンシップであるキスであれば、基本的には噛まれる危険性は低いと思いますが不測のトラブルによって咬傷事故が起こることがあります。
スキンシップを取っている時に不意になった音に犬が驚いて噛んでしまったり、テンションが上がって遊びのつもりで噛みついたりということは十分に考えられます。
犬と人間は違う生き物ですから、そのような思いもしない事態が起こるということはしっかりと頭に入れておいた方がいいでしょう。犬に悪気はなくても、手足に比べて皮膚の薄い顔や口元を噛まれるとひどい出血を起こしたり、傷が残ってしまうこともあります。
まとめ
愛犬とのキスは幸せなスキンシップのひとつかもしれませんが、衛生面や事故の危険性、そして人畜共通感染症の可能性を考えるとおすすめできることではありません。愛犬とのスキンシップはキスだけでなくさまざまな方法がありますので、できるだけ違う方法で愛情を伝えていきましょうね。
ちなみに、1年に1回の予防接種義務のある狂犬病も人畜共通感染症のひとつです。発症すれば100%死亡する恐ろしい病気ですが、日本では数十年に渡って国内感染は確認されていません。
海外では現在も犬・ヒトともに狂犬病の発症や感染が報告されています。日本国内では可能性が低いですが、海外では要注意です。また、狂犬病を発症している犬は通常近寄ることはできない状態ですので、キスによる狂犬病感染については基本的に心配しなくていいでしょう。