犬が『くさいもの』を好む理由1.「くさい」という概念がないから
犬にとっては「好きなニオイ」か「嫌いなニオイ」か
まず、犬には「くさい」という概念はないと考えられます。私たち人間は、「くさいニオイ」イコール「不潔」「汚れている」と考えますが、それは人間の概念であって、犬にはその概念はありません。
犬は自分の寝床や居心地の良い場所を自分の糞尿で汚さないようにするだけで、自分の体臭が浸み込んで強い獣臭がしていても、その寝床を不潔だとは思いません。
ですから犬にとっての「くさいニオイ」とは「嗅ぎたくない嫌なニオイ」ということになり犬にとっての「好きなニオイ」が人間にとって好ましいニオイとは限らないのです。
犬にとっては「くさい」イコール「嫌なニオイ」ではないということ
私たち人間にとっては、生ごみのニオイや、皮のニオイ、ほかの犬や猫のニオイ、糞尿のニオイなどは、「くさい」匂いですが、犬にとっては好奇心が刺激される、魅力的ないニオイと感じるようです。
犬が『くさいもの』を好む理由2.「くさいニオイ」の中に安心できるニオイがあるから
飼い主さんのニオイ
愛犬にとって一番、幸せを感じ、心を満たすニオイです。
大好きな家族のニオイ
飼い主さんだけでなく、同居でなくても飼い主さんの大切な家族は、愛犬にとっても大切な家族です。例えば、同居でなく、頻繁に会うこともないのに、「バアバが大好き!」「ジイジが大好き!」「ママの弟さんが大好き!」という場合があると思います。
そういう場合は、飼い主さんのニオイだけでなく、飼い主さんにとって「…加齢臭がするなあ」「汗くさいなあ」と思うものでも、愛犬にとったら、たまにしか会えない大切な、大好きな人の大好きな「ニオイ」は、やっぱり大好きなのです。
犬が『くさいもの』を好む理由3.「食べ物」のニオイがするから
人間の食べ物に興味を持っている
普段、愛犬専用のドッグフードを喜んで食べていても、たいていの犬は飼い主さんの食べているものに興味を持っています。焼肉やバーベキューの後、あるいはファーストフードのお店で働いたあとのニオイを嗅ぐのは、人間の食べるものに興味を持っているからではないでしょうか。
飼い主の靴下や洋服を好むのはなぜ?
快感を感じるから
犬にも人間にも、脳内に「尾状核(びじょうかく)」と言われる部分があり、そこは学習と記憶システムにおいて、重要な役割を担っています。
2014年、アメリカのエモリー大学の研究者によって、犬に親しい人のニオイを嗅がせたら、その「尾状核」が活性化した、という研究結果が報告されています。
実は、人間にも同様の実験がなされていて、「恋人の写真を見せたら、尾状核が活性化した」という研究結果が出ています。その際、「尾状核」が活性化すると、「脳内麻薬」と言われるドーパミンが多く分泌されると「快感」を感じるようになります。
おそらく、犬の脳内も同様で、「飼い主さん、大好き!」と犬が思い出しながら、人間にとっては悪臭に感じるほど強烈に残る飼い主さんのニオイを嗅いでいると、うっとりと快楽を感じられるのでしょう。そして、その経験を何度も重ねているうちに飼い主さんのニオイが最も強く残る靴下などに執着するようになると考えられます。
安心するから
飼い主さんの側が愛犬にとっては一番、安心できて、寛げる場所です。その記憶が愛犬の脳裏に刻み込まれているので、飼い主さんのニオイを嗅ぐと緊張が解け、安心するようになります。
愛犬が好む「飼い主さんのくさいニオイ」の正体
汗
汗には、エクリン汗腺から出る汗、アポクリン汗腺から出る汗の2種類の汗があります。どちらも、分泌された直後は無臭です。
皮脂
皮脂には、皮脂腺から出る皮脂と角質層の中にある脂質の2種類があります。
細菌
皮膚の上には、常在細菌と言ってずっと皮膚の上に生息している菌がいます。
愛犬が好む「飼い主さんのくさいニオイ」の正体
汗、皮脂、細菌が代謝、分解、酸化などの変化によって影響し合い、ニオイを出す物質を発生させます。このニオイ物質は、時間の経過とともにニオイが強くなっていきます。それが愛犬が好む飼い主さんのくさいニオイの正体です。
まとめ
愛犬がニオイを嗅いでいる時にどんな表情をしているか、観察したことがありますか?よく見てみたら、ただ熱心に集中してニオイを嗅いでいるのと、ゆっくりそのニオイを楽しんでいるかのようにうっとりとニオイを嗅いでいる時の違いを見分けることができるかもしれません。
私たちは、愛犬と言葉を交わして感情のやりとりをすることは出来ません。その分、相手の表情、尻尾の動き、鳴き声などから愛犬の気持ちを察しようという努力が必要になります。
今回も「くさいものを好む」のはなぜだろう?という私たち人間の疑問に対して、「どうして、そんなくさいものを好んで嗅ぐの?」と言葉で聞き、その答えも言葉で帰ってきたら、簡単に愛犬の気持ちを理解することが出来たでしょう。
けれども、それができない以上、愛犬の行動で「本当に好きなニオイなのか」「好奇心を掻き立てられるニオイに惹かれて興奮しているのか」を見極められる観察眼が必要です。
ただ言えることは、愛犬にとっての飼い主さんのニオイは、たとえご本人が「くさい!」と思うほど異臭を放っているとしても、愛犬にとってはその異臭すら、心満たされる愛する人のニオイの塊だと感じているかも知れない、ということです。それほどの愛情を私たちに注いでくれる存在が側にいることに私たちは感謝すべきだと思いませんか?