ありえない犬のしつけ①体罰、強制訓練
犬のしつけというと、今から20年程前までは体罰も用いた強制訓練が主流でした。問題行動を直したい場合、訓練所に預けて訓練士による強制訓練で基本的なしつけや問題行動の矯正が行われていました。
望ましくない行動を叩く、蹴るなどの罰を与えることでやめさせ、正しい行動へと導くのが強制訓練の基本です。もちろんその訓練方法が絶対によくないということではなく、強制訓練だからこそ直すことが出来る問題行動もあります。
しかし、すべてのしつけに強制訓練が必要とは言えず、「ほめるしつけ」と呼ばれる陽性強化で十分しつけることが出来る場合も多く見られます。
適切な方法でなければ逆効果
また、強制訓練は適切なタイミングや力加減で行わなければ効果が出ず、犬に苦痛を与えるだけでしつけとしての意味をなさないことがあります。しっかりとその方法を学んだプロの訓練士が行えば効果的な強制訓練も、一般の飼い主さんが見様見真似でやってみてもただの体罰になってしまうでしょう。
人に危害を加えたり、犬自身に危険が及ぶなどの問題行動が見られる場合は、強制訓練を含めてどのような方法でも改善させることを目指す必要があります。
しかし、家庭内で犬と飼い主が快適に暮らすための基本的なしつけであれば体罰を用いるような強制訓練は不要だと思います。的確でない強制訓練や体罰は、犬と飼い主さんの関係性を壊す可能性が高いのでむやみに行わないようにしましょう。
ありえない犬のしつけ②主従関係を築く
少し前まで犬のしつけのスタンダードとして考えられていたのが『リーダー論』です。犬の祖先として考えられていたオオカミの群れ社会を真似して、飼い主が犬にとってのリーダーとなることで犬を従わせるという考え方です。
今でも日本では広く浸透していると思いますが、動物のしつけや愛護に関する先進国では『リーダー論』に疑問が投げかけられるようになっています。
近年では、犬の祖先がオオカミそのものではないことやオオカミの群れでもそれほど厳格な縦社会が築かれていたわけではないことなどがわかってきました。また、犬は人間を同種の動物と認識しているわけではないため、オオカミの行動をそのまま真似しても意味がないのではないかと考えられるようになってきたのです。
『リーダー論』に則ったしつけでは、「食事は飼い主が先に食べる」「ドアを出るのは飼い主が先」「飼い主より前を歩かせてはいけない」「ベッドやソファなど高いところに犬を上げてはいけない」などと言われていました。また、オオカミのリーダーや親がするように、叱る時にマズルを掴んだり、体を仰向けにして押さえつけたりすることが推奨されていたこともあります。
しかし、そのしつけ方法の根拠となる『リーダー論』そのものが疑問視されているため、そうした細かな行動や接し方、叱り方は効果的でないと考えられるようになっています。
もちろん、ひとつひとつの行動は犬の安全や家庭内の清潔を守るために有効なものもありますが、しつけとしての意味はあまりないかもしれません。特にマズルを強く掴んだり、体を押さえつけることは犬に苦痛を与えるだけでなく、噛みつきや飼い主さんへの不信感を持たせる原因になることもあるのでやめるようにしましょう。
ありえない犬のしつけ③番犬として吠えさせる
一昔前、日本では犬を外で飼うのが当たり前と考えられていました。今のように“家族の一員”としてだけでなく、“番犬”として玄関先や庭につながれて飼われていることが多く見られました。そのため、家を訪問する人や前を歩く人に対して吠える犬も多く、番犬としての働きを求める飼い主さんはそれを良しとしていました。
しかし、今の日本では室内で犬を飼うことが主流となりつつあります。また、室内で外に向かって吠えることなどは近所迷惑になりますし、犬自身のストレスになることもあります。外の気配を常に意識して気を張っているのは、犬にとってもとても疲れることです。
今の日本で番犬としての働きを犬に求めるのは住環境や犬の性質から見ても、あまり好ましくないことだと思います。
まとめ
犬のしつけは今もなお、進化を続けている途中です。人と犬の関係性が変わっていく中で、どのようなしつけ方や接し方がベストなのかということを、多くの研究者や行動学者が常に追求していることです。
また、どのような犬にも効果のある絶対的なしつけの方法があるわけでもありません。犬の性格や気質、飼い主さんとの関係性によっても適切なしつけ方は異なるものです。
ひとつの方法に固執したり、昔ながらのしつけだけに囚われすぎず、環境や犬のタイプに合わせて柔軟なしつけを行っていきたいものですね。