地震時、愛犬との同行避難に備えておくべきこと
日本と言えば地震大国。平成の間だけでも、地震によって多くの人・動物の被害が出た災害がありました。
地震が起こった時には、わんちゃんと暮らすお家では通常の家庭の災害対策に加えて、「愛犬との同行避難を行うこと」と「愛犬の命を守る努力」が必要になります。
これは、地震災害が起きてから考えるのではなく、平時の準備・対策が重要です。
愛犬と自分の命をつなぐ、同行避難のためにしておくべき準備を確認してみましょう。
避難場所・避難経路の確認
地震災害が起きた時に行う「避難」は、避難場所に行くことや逃げることではなく、「難を避ける=身の安全を確保すること」です。
大規模な地震災害が起きてしまったら、飼い主さん家族とわんちゃんがどうやって命を守るのかを、
- 地域防災計画
- 避難所に指定されている場所の運営マニュアル(ペットの項目を確認)
- ハザードマップ(被害予想地図)
などを元に、自分が暮らす家や周辺地域がどんな危険にさらされる可能性があるのか、愛犬と同行避難した結果受け入れてもらえる避難所があるのかを、あらかじめ確認しておく必要があります。
その上で、
- 避難所までの避難経路の確認(通行できない時のために複数準備)
- 同行避難した後の落ち着く先
を考えておきましょう。
万が一自宅が損壊し、同行避難しても避難所で受け入れてもらえる環境がない場合は、車中・屋外テント・動物病院などの施設・親戚や友人宅などを活用しなければいけません。自分の傍に置けない場合も考慮して、愛犬のための避難場所を作っておいてください。
基本的なコマンドの再確認
愛犬と同行避難する時には、飼い主さんの指示に冷静に従うことに慣れておけばより安心です。
- おすわり
- ふせ
- 待て
- おいで
といった基本のコマンドは、避難を行う時や避難場所で過ごす時に、愛犬が好き勝手に行動して危険にさらされたり、周囲の人の迷惑になることを予防するために重要です。
ケージに慣れさせておく
- 二次的なケガを防ぐ安全な避難
- 愛犬と一緒に過ごす避難場所の確保
のためにも、日頃からクレートトレーニングは行っておきましょう。
避難場所までの道路には、たくさんの瓦礫やガラスなど、愛犬の足を傷つけるものが落ちている可能性がありますが、通常わんちゃんたちは人のように靴を履かず、肉球がむき出しの状態で歩かなければいけません。
避難時に万が一危険な物を踏んでケガをしても、大規模地震の時には命を守ることが優先なので、愛犬のケガにはすぐに対応できないことがほとんどです。
無用なケガを防ぐためにはケージやキャリーに入れての同行避難がベストですが、慣れていないとすぐに入ってくれず、避難までに時間がかかって飼い主さんの命まで危険にさらされることがあります。
また、非常時の避難先では、長時間ケージの中で過ごす必要が出てくるケースも少なくありません。
その時に「狭い場所では落ち着かない」わんちゃんは、同行避難できる場所が限られてしまったり、損壊の危険がある自宅に置いておくしかなくなることもあります。
各種ワクチン、寄生虫予防の確認
犬や猫を受け入れてくれる避難所があっても、特に重要になってくるのが「公衆衛生」の概念です。つまり、たくさんの不特定の人や犬・猫がいる場所で、伝染病や寄生虫のまん延は必ず防がなければいけない重要事項なのです。
伝染病予防のワクチンや寄生虫の定期駆虫を行っていれば、愛犬が誰かに病気をうつさないだけでなく、誰かから病気をもらわないように防ぐことだってできます。
また、きちんと健康管理をしていれば、ペットを飼っていない人と避難場所を共有しなければいけなくなった時、「この飼い主さんはちゃんとしているんだな」と理解しもらうことができ、愛犬を気持ちよく受け入れてもらうきっかけ作りにもなります。
避難所によっては犬の受け入れをしてくれても、狂犬病予防注射済みの証明が受け入れ時に必要としている自治体もあるため、
- 混合ワクチン(5種、6種、9種など)
- 狂犬病予防注射(注射済み票鑑札は首輪に装着)
- ノミマダニフィラリアの定期駆虫
- 消化管内寄生虫の駆虫(フィラリア薬に含まれていることもあり)
は確実に行っておきましょう。
トイレトレーニングの確認
緊急時の愛犬のトイレは、コマンドで排泄を指示できるしつけを行っておくとより良いです。
災害が起きた時には、いつもしている自宅やお散歩ルートの特定のトイレ場所に行けないことがほとんどです。
特に避難所での生活が始まった場合、決められた場所で排泄しなければいけないこともしばしば。
そんな時に、愛犬のトイレ探しに飼い主さんが右往左往しなければいけないとなると、ただでさえ被災して疲れ切っている心と体にムチを打たなければいけません。
そこで、トイレをしてほしい場所で「ワン・ツー、ワン・ツー…」「シーシー…」など、排泄のタイミングだよと伝えるコマンドに普段から慣れていれば、避難先でもトイレ問題に頭を悩ませることが少なくなります。
2食事トレーニングの確認
わんちゃんの中には「このご飯じゃないと食べない」「このお皿からじゃないと嫌」という子がいるかもしれませんが、被災時にはわがままを言うことはできません。
自宅が損壊していつもの愛犬のご飯や食器を取りに戻れなかったり、ドッグフードの支援物資がいつもと違うものしか提供されないことは当たり前のようにあります。
- どんなご飯でもおいしく食べられる
- どんな食器からでも抵抗なく口をつけられる
ように、時には違う種類のドッグフードをおやつ代わりにあげてみたり、たまには紙皿を食器に見立ててご飯をあげてみるといった食事トレーニングも行っておきましょう。
病気のために獣医師から処方されている療法食であっても、メーカー違いの似た栄養バランスで作られているものを試しておくといった準備をおすすめします。
去勢、避妊手術について
地域の中で、自宅を除いて避難できる場所というのはかなり限られてきます。
特に災害時には、複数の見知らぬわんちゃんと距離が近くなったり、どこかから逃げ出してきてしまった放浪犬と遭遇するなど、いつもではありえないこともたくさんあります。
去勢・避妊手術を愛犬が行っていなかった場合、
- 望まぬ交配妊娠
- 雄の縄張り争いや雌をめぐる本能による喧嘩
- マーキング
といった問題が置き、避難場所にいられなくなることも考えられます。
同行避難を無事に行うという観点から、事前に愛犬の避妊・去勢手術を行っておくことが必要な場合もあると理解しておきましょう。
さまざまな刺激に慣れる社会化
愛犬にとって、たくさんの苦手なもの・怖がるものがあればあるほど、
- 警戒心から吠える
- 防御本能によって噛む(攻撃する)
といった、他人や他の動物と一緒に過ごせない事態に陥りやすくなります。
また、怖がりや緊張しやすいわんちゃんの場合、余震で発生する物音や、人命救助や瓦礫を撤去するための緊急車両の活動音、避難先での慣れない環境で過ごすストレスから、体調不良になってしまうことも考えられます。
それを予防するためには、普段からいろいろな人と出会い、わんちゃん同士でのあいさつやコミュニケーションの仕方を知っておくなど、社会化トレーニングを積んでおくことが大切です。
散歩中の飼い主さん仲間や自宅に来るお客さんからおやつをあげてもらったり、動物病院のパピー教室・シニア教室を利用して触れ合いの時間を持ってみましょう。
もし今の段階で愛犬の恐怖心をあおるようなものがはっきりしていれば、ドッグトレーナーや行動診療専門の獣医師もまじえて、克服に向けたトレーニングしておくと良いですね。
愛犬の個体識別
同行避難中や避難場所で、万が一愛犬が逃走してしまった時のため、「この子はうちの犬です」と証明できるものを準備しておきましょう。
- マイクロチップの挿入登録
- 鑑札や迷子札の装着
- 飼い主である自分と一緒に写った愛犬の写真
これらがあると、飼い主さんと保護されたわんちゃんが家族であることの証明がしやすくなります。
特に、逃走してしまった愛犬を探す時には、写真の中に愛犬の見た目の特徴が写っているとなお良いでしょう。
残念なことに地震災害時には、純血種や見た目の良い犬や猫の連れ去りを行う悪徳なグループが動くことがあります。
そんな時に愛犬を取り戻すためにも、飼い主さんと一緒に写った愛犬の写真を、事前に撮影しておいてください。
- 同行避難を行うために愛犬と安全に避難できる経路場所の確認を事前に行っておこう
- 被災時には他の人犬と一緒に過ごすことも必要になることが多いため、それを前提にした病気の予防しつけが必要
- 避難中に愛犬と離れてしまった時に再会しやすくするための手段も考えておこう
留守番中の地震、愛犬の安全は確保できている?
地震はいつ、どんなタイミングで発生するのか予想ができません。時には飼い主さんが外出中で、愛犬だけのお留守番の時に発生することも十分考えられます。
万が一にも飼い主である自分がすぐに駆け付けられない時を想定して、どんな対策をとっておくべきなのかも考えて、帰宅時にすぐに避難できるよう準備しておきたいものです。
- 生存空間は確保されているか
- 室温は長時間保たれるようになっているか
- 飼い主が長時間帰宅できない時に愛犬の様子を見に行ってくれる人がいるか
- 飼い主が帰宅するまで愛犬が生きていくために必要な水はあるか
- 愛犬のための非常用袋がすぐに持ち出せる場所に準備されているか
わんちゃんと暮らす家庭では、以上のような準備をぜひあらかじめ行っておきましょう。
生存空間の確保
皆さんの愛犬がお留守番中に過ごしている場所が、地震の揺れや火災による被害で危険な場所にならないようにしておきましょう。
- ケージやサークルの傍にある家具は倒れないよう固定
- キャスター付きの家具はストッパーで止めておく
- 飛散したガラスが直接愛犬に降りかからないようケージは窓や食器棚から離しておく
- 室内でフリーで過ごしている犬は危険が迫った時に別室に逃げられるようルートを確保
- ガスの元栓を閉めてから出掛ける
愛犬がケージやサークルから出られないために逃げられず、家具の倒壊に巻き込まれてしまったり、火災が発生するリスクを減らしておくことが重要です。
また、地震発生時に愛犬が恐怖によってパニックに陥ることも考えられるため、外への逃走につながるような窓の開けっぱなしには注意してください。
室温の管理
地震災害の時によくあるのが、ライフラインが止まってしまうことです。
エアコンだけで室温管理を行っていた場合、電気が止まってしまうと夏は蒸し風呂状態になって熱中症による愛犬の死亡リスクが高まってしまいます。
夏のお留守番時には、サークルやケージを室内の中でも涼しい場所に設置しておいたり、廊下などから涼しい風が入ってくるよう少し扉を開けておくのもおすすめです。
エアコン以外にも、冷えを感じられるマットを置いておくのも良いでしょう。
別室や廊下につながる扉が空いていれば、室内でフリーで過ごしている子の場合、自分で暑さを逃れられる場所に逃げられる可能性も高まります。
愛犬の安全確認をしてくれるご近所さんを作る
被災時によく聞く帰宅難民という言葉があるように、飼い主さん家族がすぐに帰宅できず愛犬の様子を確認できない時には、近所に様子を見に行ってくれる人がいれば安心です。
近くに合鍵を持つ親族がいればベストですが、そうもいかない時には、
- 近隣の飼い主さん仲間
- よく交流があるご近所さん
に連絡を取って、家の外からや、緊急時には窓ガラスを割ってでも室内に入って、愛犬の様子を確かめてもらうことが必要になるケースもあります。
そういった人を持つためには、普段から散歩中や動物病院に来院した時にコミュニケーションを図っておいたり、挨拶や会話でお互いをよく知っておくことが大切です。
また、事前に仲の良い飼い主さん同士で、緊急時のコミュニティを作っておくのもおすすめします。
なお、飼い主である自分以外の人に確認してもらう際には、
- 依頼する人に現在命の危険が差し迫っていないか
- 自宅の様子を見に行くことで怪我をするリスクがないかどうか
を確認してもらい、決して無理をしないように伝えてから行ってもらいましょう。
飲み水の確保
飼い主さんが長時間帰宅できず、飲み水が確保できない場合、愛犬が熱中症や脱水などによって地震以外を原因にして亡くなってしまう危険があります。
食事は1食や2食食べられなくても何とかなりますが、飲める水がないという状況は危機的です。
ケージやサークルの中で過ごす場合は、
- 大きめの飲み水の器を入れておく
- こぼれないタイプの取り付け型の給水器も一緒に用意する
といった、飲み水がなくならないようにしておく工夫が必要です。
室内でフリーで過ごしている子の場合も、複数ヶ所に飲水場所を設置しておくことで1つがダメでも他があるという状態にしておきましょう。
愛犬のための非常用持ち出し袋の準備
飼い主さんが帰宅次第同行避難ができるよう、愛犬のためのグッズをそろえた非常用持ち出し袋を事前に用意しておきましょう。
非常用袋には、とりあえずの分と持ち運びが可能な量として、まずは約1週間分を準備してみてください。
- ドッグフード(特に療法食)
- 薬(普段飲んでいるもの)
- 食器代わりになるプラスチック皿や紙皿
- ペットシーツ
- 愛犬用の水(飼い主さんの分とは別に準備)
- リードハーネス首輪
- 排泄物を処理するための袋
- 手袋や除菌シートジェル(手が洗えない時のために)
- 清拭用のペットタオルドライシャンプー剤(避難所での臭い対策)
- 愛犬を運ぶキャリー(両手が空くリュックタイプがおすすめ)
- ガムテープ油性マジック
療法食や医薬品はたとえ名前を忘れてしまっても、事前に写真を撮っておくと、違うメーカーでも同じ効果がある支援物資が届いた時に入手する時の手助けになります。
また、避難時のストレスや恐怖によるパニックによってご飯を食べない時のために、「うちの子はこれなら絶対食べる!」という、おいしく特別なものを混ぜて準備しておきましょう。
ガムテープや油性マジックは、愛犬に関する注意事項を書いてキャリーやケージに貼り付けるためのメモ代わりとしても活用できます。
特に避難所の屋外でしか愛犬を過ごさせることができない時に、「持病があります」「怖がりです」と書いて貼っておけば、濡れてもにじまず、自分が近くにいなくても他人に愛犬のことを伝える手段になるでしょう。
そして、普段愛犬のためのグッズを入手するためである動物病院やペットショップが、すぐに飼い主さん向けに営業が再開できるとも限りません。
自宅には1ヶ月分程度の備蓄を置いておくことも忘れずに意識しておきましょう。
簡易ケージにも早変わりする防災キャリー
小型犬限定になってしまいますが、背負って両手をフリーにしたまま避難でき、また、収納していた部分を広げれば愛犬のためのスペースが拡大するキャリーを準備しておくのもおすすめです。
こちらはキャリーにかけて周囲の視線を遮る掛け布や、飲水ボトルを設置するための給水口も確保されています。収納力もあるため、飼い主さん家族のもの以外を入れておくのにも十分です。
- すぐに帰宅できない時のために安全確保と周囲の人との協力体制を準備しておこう
- 気温変化が激しい季節は室温管理の工夫や飲み水の確保も必要
- 帰宅後にすぐに愛犬と避難できるよう、非常用袋の中身の準備と持ち出しやすい場所への設置は事前に行っておこう
犬には地震を予知する能力がある?
地震災害を乗り越えて振り返ってみると、愛犬や愛猫の事前の行動から、「もしかして地震を予知していた?」と思わせる行動を感じたという飼い主さんは多いようです。
阪神淡路大震災や東日本大震災でも、実際に現地にいた飼い主さんや獣医師に調査を行った記録が残っており、「いつもと違う」と感じた行動に関するデータがあります。
地震前の犬の異常行動
- 落ち着きがなく興奮状態が続く
- 異常に吠える鳴く遠吠えする
- 怯えて震える
- 散歩いつになくせがんだり逃亡しようとする
- いつもと違う場所で寝たり、睡眠すらとろうとしない
- いつもよりも甘える仕草を見せて飼い主の傍から離れない
2011年の東日本大震災が発生する前の行動について、アイリスプラザが行ったアンケート調査では、約5頭に1頭の犬や猫で、いつもと異なる行動が見られたという回答が飼い主さんから寄せられました。
人には感じることができない地震の前に発生する電磁波を感知した結果、不安を感じた犬たちが異常行動をとっているのではないかとも考えられていますが、まだ真実の判明には至っていません。
わんちゃんたちの感知能力と地震の予知に関する研究がもっと進めば、新たな事実が判明して防災に役立っていくかもしれませんね。
CiNii 博士論文 - 地震の直前予測へ向けた動物の前兆的行動に関する研究
- 地震の前に犬や猫の異常行動を感じた割合は約5頭に1頭
- そわそわとした落ち着かない様子や不安な様子を示す犬や猫が多数いた
- 何が犬や猫の異常行動を引き出して予知を思う行動につながったのかはいまだ判明していない
まとめ:備えあれば憂いなし!愛犬の安全確保に努めよう!
地震災害は、大規模なものが発生してしまうと飼い主さんもわんちゃんもパニックになってしまう非常事態を招きます。
近年は防災の意識も高まりつつありますが、愛犬との同行避難や避難場所の確保になかなか目途が立たない、同準備すれば良いのかわからないという飼い主さんも多いようです。
ライフラインが寸断されたり、命の危険を感じる事態を想像することは辛いものですが、事前の備えを万全にしておくことで、いざという時に飼い主さん家族と愛犬の身を守ることにつながるかもしれません。
現在の日本では、「自助」という飼い主さん自身で愛犬を守る基本に立ち返る動きが盛んになっています。どうすれば被災時に愛犬と乗り越えることができるのか、ぜひ今から考えてみてくださいね。