「鏡像認知」とは?
鏡の姿=自分と一致して認知する能力
私たちは当たり前のように、鏡や窓ガラスなどに映る自分の姿を「自分である」と認識して生活しています。このように、鏡等に映る自分を認識できることを専門用語で「鏡像認知」と言います。実はこの鏡像認知は当たり前ではなく、限られた動物にしかない認知能力です。
動物の鏡像認知を調べる「ミラーテスト」
鏡像認知能力の有無を調べるには「ミラーテスト」を行います。ミラーテストとは、対象の動物の身体にマークをつけて鏡の前に配置し、その動物が鏡に映る自分の身体のマークを触ろうとしたり気にしたりするような行動を取るかを調べる実験です。
鏡像認知のある動物
ミラーテストの結果、人間以外で鏡像認知があることが分かった動物は、
- オランウータン
- ボノボ
- チンパンジー
- バンドウイルカ
- シャチ
- アジアゾウ
- カササギ
などです。チンパンジーやイルカ、ゾウなどの知能の高い動物だけではなく、鳥類のカササギもミラーテストに成功したことがあるのは驚きです。
魚にも鏡像認知がある種が!
さらには、なんと魚類でもミラーテストに成功した種がいることが2018年に話題となりました。その魚類とは「ホンソメワケベラ」という小さな魚です。
ホンソメワケベラは鏡に慣れるまで、背泳ぎをしてみたり鏡に突進して急に止まってみたりといったいつもと違う行動を取って「これは自分なのか?」と確認する様子が見られました。鏡に慣れてからは、自分の身体につけられたマークを近くにある物にこすり付けて落とそうとするような行動を見せたそうです。
この結果に、研究者たちは椅子から転げ落ちるほど驚いたそうです。
犬に鏡像認知能力はあるの?
鳥類や魚類にも鏡像認知能力があるとされているので、動物の中でも知能指数が高めな犬にも鏡像認知能力があると思いますよね。しかし、残念ながら犬には鏡像認知能力はありません。犬は鏡に映った自分の姿を自分であると認識することができないのです。
鏡の自分を見たときの犬の気持ち
では、鏡に映った自分を見たときに、犬はどんなことを考えているのでしょうか?
鏡を見たときのリアクション
犬が鏡に映る自分の姿を見たときのリアクションで多いのが、
- 見つめ続ける
- 目をそらす
- 特にリアクションせず無視する
- 吠える等の威嚇
- ウロウロする
- 遊びに誘う
などです。わんちゃんによってリアクションが様々で、特に興味を示さない子もいれば鏡の自分に一生懸命吠えてしまう子もいます。
「匂いのしない奇妙な犬」がいると感じる
犬は鏡に映る自分を自分であると認識することはできません。しかし、見つめたり吠えたりといった何らかのリアクションを取ることはよくあります。自分だということは分からなくても、鏡の中の自分の姿は見えていると考えられます。
犬は視力よりも嗅覚を使って情報を認識します。鏡を嗅いでも生き物の匂いがしないので、鏡に映る自分に対して「何だこいつ…」と不思議に感じることが多いのではないかと感じます。鏡に映る「得体の知れない相手」に対してのリアクションは、そのわんちゃんの性格によって変わってきます。
穏やかな子や好奇心旺盛な子の場合
例えば、穏やかな性格の子は「何だろうなぁ」と不思議そうに見つめたり、特に気にすることもなくスルーしたりすることが多くあります。やんちゃで好奇心旺盛な子の場合は、匂いのしない鏡の中の自分に対して「何だ何だ?!」と興味を示してウロウロしたり、遊びに誘うポーズをとったりすることもあります。
警戒心が強く臆病な子の場合
警戒心が強く臆病な子の場合は「奇妙なヤツ!危険だ!」と過剰に吠えて威嚇することも多くあります。しかも、自分が吠えているので鏡の中の自分ももちろん吠えています。そうして鏡の中の自分と威嚇のし合いとなり、興奮が続いてしまうこともあります。
鏡に吠えてしまうときの対処法
1.鏡に慣れることがポイント
鏡像認知ができるとされるチンパンジーでも、初めて鏡を見たときや若い個体の場合には鏡の中の自分が自分であると認識できなかったという実験結果があります。最初は威嚇する様子があっても、鏡にある程度慣れるにつれて、鏡の中の自分が自分であると理解していったそうです。
これと同じように、犬の場合も子犬の頃は鏡に異常に反応してしまうこともあるかもしれませんが、成犬になるにつれて鏡に慣れていくことで平気になることが多いです。
2.飼い主さんも一緒に映る
警戒心が強く臆病な性格の子の場合、鏡に慣れることができなくて吠えてしまう子もいます。鏡の中の自分に対して「匂いのしない、知らない犬がいるぞ!」と威嚇モードになってしまうのですね。
その場合には、飼い主さんも一緒に鏡に映り、手を振ってみたりいろいろなポーズをとってみたりしてください。犬は鏡像認知はできませんが、鏡に映った飼い主さんのことは認知することができます。
そばにいる飼い主さんと鏡の中の飼い主さんとを見比べて「あれ?2人いる?」と不思議そうにすることもあります。このように「鏡は映るもの」ということが理解できれば、鏡に慣れていくキッカケとなりやすいです。
鏡を活用し始める子も!
鏡に慣れてきたこの中には、鏡越しにお部屋の中を観察したり後ろにいる飼い主さんを見つけたりするなどして、鏡を活用し始める子もいるそうです。
まとめ
鏡の中の自分を一生懸命遊びに誘ってみたり、頑張って追い払おうと吠えたりしている姿を見ると「それ、自分だよ~」と教えてあげたくなってしまいますね。
私たちは鏡に映る自分を自分だと認識する「鏡像認知」ができますが、犬には鏡像認知能力はありません。そのため、鏡に映った自分の姿を見ても「匂いのしない犬がいる」という認識しかできません。
警戒心が強く臆病なわんちゃんの場合には、鏡に自分が映ると吠え続けたり威嚇したりしてしまうこともあります。その場合には、飼い主さんも一緒に鏡に映ってあげることで、鏡は映るもので危険ではないということを理解しやすくなります。