大型犬種に多い股関節形成不全と、それに伴う変形性関節炎
股関節形成不全は、骨の発育過程で股関節の形成に解剖学的な異常が起きた状態です。股関節とは骨盤と大腿骨(太ももの骨)のつなぎ目の関節です。股関節形成不全は関節の構造と機能に影響を及ぼして、痛みを伴う進行性の変形性関節炎を引き起こすこともあります。大型犬種に多く見られ、犬の生活の質を大きく低下させる深刻な問題です。
新しい研究によって股関節形成不全と、それに関連する変形性関節炎は多数の遺伝子の影響を受ける複雑な障害であることが明らかになりました。フィンランドのヘルシンキ大学の研究者による研究の内容をご紹介していきます。
ジャーマンシェパードを対象に遺伝子を研究
ヘルシンキ大学の獣医生物科学の研究者は、フィンランドケネルクラブの繁殖データベースから股関節形成不全を有する700匹以上のジャーマンシェパードから血液サンプルを採取しました。フィンランドでは股関節形成不全は5つのクラスに分類されます。
研究に参加した犬も公式のスコアを使用して分類されました。分類は障害の重さの他に「関節の適合性」「亜脱臼の程度」「変形性関節炎を発症」など、いくつかのサブ特性が含まれます。
研究チームは、股関節形成不全のクラス分類やサブ特性といった形質の違いとDNA配列を比較した結果、3つの重要な遺伝子座が明らかになったそうです。遺伝子座とは染色体やゲノム上でのそれぞれの遺伝子の位置のことです。
変形性関節炎にも遺伝子が関連!
3つの遺伝子座のうちの1つは変形性関節炎に関連するものでした。以前は股関節形成不全に伴う変形性関節炎は、形成異常が引き起こす関節表面の摩耗によると考えられていましたが、この研究では多数の遺伝子が関与していることが示されました。これらの遺伝子のより具体的な因果関係については、今後さらに研究が必要であると研究者は述べています。
この研究は、股関節形成不全の遺伝的性質と多くの遺伝子が関与しているという背景を明らかにしています。その複雑さのために、この障害に対する遺伝子検査は単一の遺伝子によって引き起こされる病気などと同じ方法で開発することができません。
しかし、どの遺伝子が障害の進行にどのように関連しているのかがより深く理解できるようになれば、より良い治療方法の開発につながる可能性があるとのことです。
この研究のために収集されたジャーマンシェパードたちのサンプルは、今後の研究にとっても貴重なデータとなります。全てのサンプルはヘルシンキ大学の教授が設立したDNAバイオバンクに保存されるそうです。
まとめ
ジャーマンシェパードの股関節形成不全、そしてそれに伴う変形性関節炎に関連する遺伝子座が明らかになったという研究をご紹介しました。犬にとって苦痛の大きい変形性関節炎の遺伝子座が特定できたことは特に重要な部分です。研究の成果が効果的な治療方法の開発につながることに大きく期待したいと思います。
《参考URL》
https://bmcgenomics.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12864-019-6422-6
https://www.helsinki.fi/en/news/life-science-news/more-genes-associated-with-canine-hip-dysplasia-and-osteoarthritis-discovered