大型犬に多い股関節形成不全と肘関節形成不全
犬の股関節形成不全と肘関節形成不全は、大型犬や超大型犬に多く見られる病気です。股関節形成不全は発育の過程で股関節の形成に異常が起こり、炎症や痛み、脱臼や亜脱臼と言った症状が出てきます。
肘関節形成不全は犬の前脚の肘関節を構成する3本の骨のうち1本または2本の骨の形成異常によって起こります。変形性関節炎や跛行(歩行困難)運動障害につながり、犬のQOLを低下させてしまいます。どちらも遺伝的要因が疑われる他、栄養過多、過剰な運動などが原因だと考えられています。
先ごろイギリスで発表されたリサーチ結果によると、この病気が多く見られる6つの犬種(ラブラドール、ゴールデンレトリーバー、ジャーマンシェパード、ロットワイラー、バーニーズマウンテン、ニューファンドランド)において、股関節および肘関節形成不全の等級またはスコアが著しく改善されたことが明らかになりました。
犬の股関節と肘関節の健康状態を評価するスクリーニングプログラム
ご紹介するリサーチは、英国ケネルクラブとノッティンガム大学の研究者によって発表されました。このリサーチのデータとなる数字は、イギリスの犬の股関節および肘関節の形成不全の重症度を等級やスコアで評価する、スクリーニングプログラムに基づきます。
英国ケネルクラブと英国獣医師協会によって管理されているこのプログラムは1965年に始まり、現在の形の段階評価プログラムは1998年にスタートしました。
スクリーニングに参加した犬のレントゲン写真が英国獣医師協会に送られ、詳細に検査や測定が行われ、等級またはスコアがつけられます。これらの結果はケネルクラブを通じてブリーダーが使用することができ、繁殖に最適な犬を特定し、形成不全の素質のある犬が生まれてくるリスクを低下させます。
研究者は、このスクリーニングプログラムからのデータを分析しました。
健康な犬を繁殖に使うことの大切さ
分析結果が示していたのは、股関節および肘関節形成不全の状況が大きく改善していたということです。6犬種の大部分で、重度の股関節形成不全は顕著に減少していました。肘関節形成不全は股関節ほどではないものの、やはりはっきりと減少していました。
また、繁殖に使用された犬の股関節と肘関節の等級とスコアは改善していました。さらに繁殖に使用された犬の等級とスコアを血統データとリンクさせて調べた結果、6犬種の最近の世代は30年前に飼育されていた世代よりも、形成不全のリスクが低いことも分かりました。
遺伝的な原因があると考えられる病気についてしっかりとスクリーニング(ふるい分け)を行い、病気の素質が少ないと考えられる犬だけを繁殖に使うことで、病気に苦しむ犬を減らし健康な世代を作り上げていくことができるとリサーチ結果は示しています。
まとめ
イギリスにおいて、股関節および肘関節形成不全が多く見られる6犬種の状況が改善しているというリサーチ結果が発表されたことをご紹介しました。
獣医師協会とケネルクラブが協力しあって、病気のスクリーニングを実施し、繁殖の管理につなげることで遺伝疾患は減らしていけると証明された結果となりました。
残念ながら、日本ではこのような遺伝疾患の管理はほとんど行われていません。このようなリサーチが発表されることで、少しでも良い影響が出てほしいと強く思います。ブリーダーやケネルクラブだけでなく、一般の飼い主さんもぜひ知っておいていただきたい課題です。
《参考URL》
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2019.00490/full