咬みつきレベルを理解することの重要性
本来犬は、子犬の頃に親や兄弟犬に対して甘咬みを行うことで、咬む強さの加減や咬まれることの痛みを学びます。成長していくにつれて、恐怖心や不安から威嚇行動として咬みついたり、攻撃性によって相手に咬みついたりするようになることがあります。
犬が人間に咬みついた場合、決してその行動を放置せず適切な対応を取ることが必要です。すぐに適切な対応をすることで、その咬みつき行動を抑制したり、頻度を減らしたりしていくことができる可能性が高いからです。
反対に咬みついたことに対して十分な対応やトレーニングが行われないと、どんどん悪化して、より強い咬みつきレベルへと発展してしまうことがあるので注意しなければなりません。
適切な対応・トレーニングを行うためには、まずその咬みつきのレベルや意味を知ることが重要になってきます。犬がどのような意味を持って、何を伝えるために咬みついたのか。それを理解することは、ただ犬を悪者にするのではなく今後もその犬と仲良く暮らしていくために欠かすことのできないことなのです。
イアンダンバー博士考案「咬みつきスケール」
アメリカの獣医師で動物行動学博士でもあるイアン・ダンバー氏は、犬の咬みつきの深刻度をレベル分けし「咬みつきスケール」を考案しました。パピートレーニングの第一人者であり、今世界中に広まっている陽性強化トレーニングの先駆者でもあるイアン・ダンバー博士ですが、犬の咬みつきや攻撃行動などの問題行動の矯正トレーニングについても先進的な取り組みを多く行っています。
<咬みつきスケール>
レベル1
乱暴もしくは攻撃的な行動だが、皮膚に犬の歯は接触していない状態。
レベル2
皮膚に歯は接触していても穴はあいていない状態。皮膚に対して歯が垂直方向でなく、前方または水平方向に動くことでできた切り傷(0.25mm未満の深さ)と出血を伴う可能性はある。
レベル3
1回の咬みつきで皮膚に1〜4個の穴があく。いずれの穴も犬歯の半分以上の深さはなく、比較的浅いが、咬みつき被害者が手を引いたりすることで、一方向への裂傷を負う可能性がある。
レベル4
1回の噛みつきで皮膚に1〜4個の穴があき、犬歯の半分以上の深さの穴が1つ以上ある状態。犬が数秒間咬みつき圧迫があった場合は裂傷の周囲に打撲による変色が残る。また、犬が咬みついたまま頭を振ることで2方向性の裂傷ができることもある。
レベル5
レベル4を2回以上行う連続した咬みつき。または、レベル4の噛みつきを毎回1回以上伴う連続攻撃を複数回、起こしている。
レベル6
被害者が死亡する咬みつき。
<咬みつきレベル別>対処・トレーニング方法
レベル1~2
犬の咬みつき事故の99%以上が「咬みつきスケール」のレベル1もしくは2だとされています。レベル1~2の咬みつきについては、恐怖心や警戒心、またエネルギーが有り余っていることが原因であることが多く、その犬自身の危険度はそれほどではありません。
そのため、犬に不快感や恐怖心を与えず、適切な接し方をすることで咬みつきは抑えられる場合が大半です。飼い主との信頼関係を築くことや基本的なトレーニングを行うことで咬みつき行動も見られなくなるでしょう。
レベル3
レベル3程度の咬みつきが見られる場合、ある程度人間とのコミュニケーションが取れて指示に従うことができる状態であれば、改善する見込みはあると考えられています。行動の治療に危険が伴う可能性がありますが、ドッグトレーナーなど行動療法のプロフェッショナルとともに時間をかけて行うことが大切です。
レベル4
レベル4の咬みつきはとても危険なもので、成犬の場合は咬みつき行動自体はよくならない可能性もあります。ただし、行動療法に関する知識が深く、実績もある優れたドッグトレーナーなどのもとにおいては飼育することもできるとしています。その際には犬の行動を制限するための誓約書などを作成することを勧めています。
レベル5および6
レベル5および6の咬みつきを見せる犬は極めて危険であり、安全を確保できないことから人間のそばに置いておくことは避けるべきとしています。犬の一生を隔離して過ごさせることはQOLの面で適切でないため、イアン・ダンバー博士は安楽死を勧めています。
まとめ
犬の咬みつきにはそれぞれ意味があり、そのほとんどが飼い主や周囲の人間が接し方を変えることで抑制することができるものです。犬の咬みつきがどのレベルで、何を意味しているのかを考えて、その上で適切な対応・トレーニングを行うことが犬を飼育する私たち人間の義務なのだと思います。
咬みつき行動に悩んでいる場合は、決してその行動を放置したり諦めたりすることなく、プロの手を借りるなどしてしっかりと向き合っていきましょう。