『ランナーズハイ』って何?
現代人は運動の大切さを知識として持っていても、毎日ジョギングやランニングを実行しているという人はあまり多くありません。多くの人にとって走るという行為は、辛い、しんどい、疲れることですが、定期的に走ることを欠かさない人々にとっては心地よい快感をもたらすものです。人間は走ることで体内の神経伝達物質のひとつである内因性カンナビノイドの血中レベルが高くなります。
内因性カンナビノイドというのは簡単に言うと脳内マリファナ類似物質で、この物質の血中レベルが高くなると脳の報酬領域に「今感じているのは喜びである」とメッセージを送ります。それによって痛みと不安の両方を軽減し、幸福感を生み出します。これが『ランナーズハイ』と呼ばれる状態です。普段走らない人も、走ることでこの神経伝達物質が生成され快の感覚を得ることができます。
アメリカのアリゾナ大学の進化生物学の研究者は、走ることで脳の報酬領域が快の感覚を得るようになったことが、犬を含むいくつかの哺乳類が走ることを好むように進化した可能性につながるかどうかを調べる実験を行いました。
人間と犬とフェレットを比較
実験には人間、犬、フェレットが参加しました。犬とフェレットはそれぞれトレッドミルで歩いたり走ったりするよう訓練を受けています。3種の生物のうち、人間と犬は種としての歴史の中で長距離を走ってきた実績があります。フェレットは短距離では速く走ることができますが、長距離を走ることは種としての歴史の中にはありません。
実験では被験者がトレッドミルで走る、歩くの運動を行い、運動の前後に採取した血液サンプルの成分が比較されました。人間と犬では、トレッドミルで走った後には血液中の内因性カンナビノイドのレベルが上昇していました。対してフェレットではカンナビノイドの上昇は見られませんでした。トレッドミルで歩く運動の後には、全ての種でカンナビノイドの上昇は見られませんでした。
この結果から、犬と人間は走ることで脳が報酬を受け取るが、フェレットは受け取らないということが分かります。また犬も人間にとっても歩くことは報酬にはならないということも分かります。
種としての歴史の中で長距離を走る必要があった生物は、走ることを楽しむように脳が進化したと言えます。
走ることは犬にとって自然なこと
実験の結果から走ることで脳に心地良い感覚をもたらす物質が生成されるランナーズハイという現象は犬にも起こるということが分かります。
走るたびに脳が報酬を受け取るのですから、犬は走ることに対して進化によって強化されてきたと言えるでしょう。歩くことではこの報酬は受け取れないので、毎日散歩に出かけていてもそれだけでは犬が物足りなく感じるのも当然ですね。
幸いなことに私たち人間も、走ることを楽しいと感じられるように進化した脳を持っています。ここは一念発起して、犬と一緒に走るしかないなという気持ちになります。皆さんはいかがですか?
まとめ
犬と人間は走ることで脳の報酬領域が快の感覚を得ることから、走ることを楽しいと感じるように脳が進化してきたという結論が出た研究結果をご紹介しました。
現代の家庭犬の多くは、外で走り回る時間よりも自分のベッドやソファーの上でのんびりしている時間の方が長くなっています。それ自体は仕方のない部分もあるし、犬が快適な環境でくつろぐのは良いことですが、走ることが種としての犬にとって自然で心地良いというのは忘れずに心しておきたいと思います。
走る犬たちの嬉しくて楽しくて仕方がないという顔を見ると、この研究の結果がしっかりと裏付けられていると感じられます。
《参考URL》 https://jeb.biologists.org/content/215/8/1331.full