犬と人間の子供の骨肉腫についての研究
骨肉腫、身近に犬を飼っている人が多いという方は一度はこの病気で愛犬を亡くしたというお話を聞いたことがあるかもしれません。骨肉腫は骨から発生する悪性腫瘍ですが、犬においてはそれくらいに一般的で、大型犬〜超大型犬に特に多く見られます。ヒトの小児骨肉腫は比較的まれな病気ですが、攻撃的で治療が難しいことは同じです。治療法は外科手術および化学療法ですが、過去30年近くこの病気に対する新しい治療法や病気に関する医学的な進歩を見出せずにいる状態です。
しかしこの度アメリカのタフツ大学と非営利団体トランスレーショナル・ゲノミクス・リサーチ研究所が共同で行った骨肉腫の比較腫瘍学の調査結果がネイチャー誌に発表されました。この研究結果は、骨肉腫という攻撃的な病気の治療に希望をもたらす可能性があります。比較腫瘍学というのは、ヒトの腫瘍と他の動物種の腫瘍の比較を行う学問です。
犬の腫瘍のゲノム解析
研究者たちは骨肉腫を患っている59匹の犬のゲノム配列を決定し、ヒトの骨肉腫と比較しました。その結果、犬の骨肉腫はヒトの骨肉腫と多くのゲノム機能を共有していることが発見されました。共通していたのは、突然変異の率の低さ、構造の複雑さ、細胞経路の変化、転移性腫瘍の遺伝的特徴などです。
この研究ではさらに、犬の2種類の遺伝子におけるガンの再発およびガンを発生させる可能性のある突然変異も発見されました。これらの発見は犬の骨肉腫研究に進歩をもたらし、ヒトと犬における骨肉腫の発生と転移、再発の仕方についてより深い理解が得られると考えられます。そしてその先にはこの病気に苦しむ犬と子供たちの治療法開発の可能性が広がります。
犬と人間のガンを比較すること
ガンの治療法の研究では、遺伝子操作などを行ってヒトと同じガンを発生させたマウスが使用されることが多いそうです。医学の発達のためとは言え酷い話である上に、マウスでのモデルからはヒトに最適な結果を出すことが難しいこともあります。比較腫瘍学という学問が大切なのは、ヒトの腫瘍と他の動物に自然発生した腫瘍を比較することで、より効果的な治療法の開発につながることです。その過程で、動物と人間両方の治療法が確立するのも良い点です。
今回の研究でも「研究の過程で傷つけられた犬はいない。全て自然発生したガンを患っている家庭犬で、それらの犬の組織サンプルのみを調査に使用した」とされています。この研究のための資金は、米国立衛生研究所、国立ガン研究所、国立トランスレーショナルサイエンスセンター、ダナ・ファーバー/ハーバード癌センター、オハイオ州立大学総合癌センターから提供されており、犬とヒトのガンを比較するという研究にどれほどの期待が寄せられているかがわかります。
ガンだけでなく糖尿病など他の病気でも犬とヒトの比較をしながら治療法を開発する研究は数多く行われています。人間のためはもちろんのこと、犬のためにも実験動物のためにも、このような研究の仕方が増えて欲しいものだと思います。
まとめ
アメリカの研究者によるリサーチで、ヒトの子供と犬の骨肉腫のゲノム配列がとてもよく似ていること、犬の骨肉腫の再発と発生に関連すると思われる突然変異も発見されたことをご紹介しました。これらの研究が、骨肉腫の治療方法の開発につながることに期待したいと思います。
《参考URL》 https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-07/ttgr-srg071919.php