視覚でもない聴覚でもない、触覚で犬にキューを出す
7月に東京で行われたワールド・ハプティックス・カンファレンスでユニークな犬用ベストに関する論文が発表されました。「ハプティックス」というのは力、振動、動きなどを伝えることでフィードバックを得るテクノロジーを指します。日本語では触覚技術とも呼ばれます。
犬用ベストに関する論文を発表したのはイスラエルのネゲブ・ベン・グリオン大学の研究者です。その内容は遠く離れた人間と犬がコミュニケーションを取るために犬が着用する振動触覚ベストについてです。
通常、犬に対して何らかの指示を出すときには、犬の視覚または聴覚に訴えるジェスチャーや音声の言葉が使われます。振動触覚ベストでは、ベストに取り付けた機器が軽く振動することで触覚が犬へのキューになります。
振動触覚ベストを着用してのトレーニング
振動触覚ベストは離れた場所からリモートコントロールで操作します。振動モーターは長辺約3.5cmの長方形のケースに入っており、振動が確実に皮膚に伝わるようにケースには小さな突起がついています。
振動モーターは犬の腰や肩などの骨のある部分に伝わるようにベストに設置されています。モーターが振動する場所や回数などの違いでそれぞれのキューが表現されます。
この研究のためのトレーニングに参加したのは研究者の愛犬であるラブラドール×ジャーマンシェパードのタイでした。タイは「ターン」「伏せ」「来い」「バック」については言葉の指示ですでに出来ていました。タイが触覚による最初のキューを約1時間ほどで覚え、その後も順調にキューを覚えて行きました。
ベストとモーターの重さは合計で約500g、体重35kgのタイにとっては負担になる重さではありません。研究者は犬よりも先に振動を体感して確認しており、それは携帯電話のバイブモードくらいの強さで痛みや不快感は全くないとのことでした。タイは不快感は全く示さず、トレーニングはトリーツを使ってポジティブ強化の方法で行われました。
リモコンによる触覚のキューはどんなことに利用できるのか?
リモートコントロールの遠隔操作を使って振動による触覚で犬に指示を出すことができるというのは、作業犬の様々な可能性を引き出すものです。
例えば災害救助犬や匂いの追跡をする犬は、ハンドラーから離れた瓦礫の下や狭い場所で仕事をすることが多いものです。そのような時に、人間が離れた所から指示を出すことができれば大きな助けになります。警察犬など音を出せない状況での仕事、反対に軍用犬など騒々しい場所での仕事にも触覚を使う指示は価値の大きいものです。
またリモコンを使った指示は、ハンドラーが使う言語に関係なく出すことができます。ハンドラーに身体的な障害がある場合にも、介助犬への指示にリモコンが使えると可能性が広がります。反対に犬の方に聴覚障害がある場合も、触覚によるキューは有効です。
これはタイの飼い主である研究者とタイのトレーニングの様子の動画です。
まとめ
リモートコントロールによる振動触覚が送れるベストを犬に着用させて、触覚でキューを出して犬に行動を指示するという研究をご紹介しました。
研究者は今後は様々な犬種、年齢、トレーニング経験の犬で振動触覚ベストの技術をテストして、より高度な機器を実際の作業犬用に開発していく予定だそうです。
《参考URL》 https://phys.org/news/2019-07-dogs-haptic-vibration.html