じっと見るとき
犬が他の犬を見つめる理由
犬同士のコミュニケーションにおける「見る」という行為は、単純な観察ではなく優位性を表す行動といわれています。つまり、相手をじっと見つめることで「自分が優位だ」ということを示しているのです。これに対して立場が弱い犬たちは、じっと見つめられることに対してさっと視線を外します。顔を背けたり、伏せの姿勢をとって敵意がないということを示したりするのです。
このような行動により、犬たちは無駄な争いごとを避けてグループや群れの中でうまく生活をしていくようです。しかし、じっと見つめている相手が目をそらさず服従の姿勢も取らない場合は、犬の目つきが変わり凝視をします。それでも相手が目をそらさない場合、威嚇が始まるか自分が目をそらすかなど犬同士の力関係によって行動が変わっていきます。
犬が人を見つめる理由
これが人間に対してはどうでしょうか。犬にとって相手は犬でも人間でも大差はありません。まだ家族に迎え入れて間もない時期など、犬との関係性ができていないときは要注意です。犬たちはじっと人間の目を見つめてきます。その時、人間のほうから目をそらしたり、かわいいからといって自分の態勢を低く犬に近づけたりすることで、犬は人間が服従したと勘違いし家族という群れの中で優位にたったと考えてしまうのです。これはその後のしつけにとても影響を及ぼすので、子犬相手の場合(あるいは迎えたばかりの犬の場合)はにらめっこに負けないように凝視することが大切なんですね。
犬の視線の意味
争わない順位付けのため
先述の通り、犬にとってじっと見つめるということは自分と相手の立場を明らかにするという意味合いがあります。目線と態度だけで立場や強さを知ることができれば、余計な争いごとを避けることにもなります。群れで暮らす犬にとって、無用な争いは避けるべきことであり、リーダーを認めていうことを聞くということは生きるためにも大切なことだったんですね。
威嚇のため
お互いに力関係がはっきりしていない、あるいは自分が上に立ちたいと思っている同志の視線には「威嚇」の意味もあります。目に力を込めて凝視することで不快だったり、怒りだったりする気持ちを表現します。この威嚇や敵意を持って相手を見つめている場合、鼻の上にしわが寄っていたり、唇を引き上げて歯をむき出しにしていたり、あるいは低く小さい声でうなっていたりする場合が多いですね。
要求のため
犬は人にも同様にじっと視線を投げかけてきます。この場合、多くは要求のための視線です。「撫でてほしい」「遊んでほしい」「食べ物がほしい」「外に出してほしい」などスキンシップや散歩、ご飯といった犬の希望する行動を、ヒトにとらせるための視線ですね。
犬の飼い主さんたちは、ワンちゃんがかわいい目で何かを訴えているということにとても敏感です。犬たちをかわいがり大切に思っているからこそ、犬の要求には答えてあげたくなって、そのために犬をよく観察しています。そして犬の目線や表情一つであれこれ要求をかなえてあげているのです。
しかしこれは注意が必要です。
前述した「争わないための順位付け」のために犬たちはお互いに視線で力関係を推し量ります。人に対しても同様で、犬の視線一つで人間が要求をかなえてあげている状態が続くと、犬にとっては自分が王様であると勘違いさせられてしまうことになるのです。散歩や遊び、ご飯などは目で訴えられても安易に応じず、家庭のルールを決めて時間を守ったほうが良いでしょう。
犬の眉
犬と目線を合わせていると、犬の表情がにこやかだったり物悲しげに見えたりすることがあります。これは人が何となく感じる偶然などではなく、犬の長い進化によるものだということが最近の研究で分かってきています。犬たちは、意図的に眉や目の周りの筋肉を動かして目の周りの表情を作るようになっているというのです。これは犬の祖先であるオオカミたちにはない形質であり、犬種ごとの差は多少あれども犬たちは大体この能力があるとのことでした。
家畜化され長い年月をヒトと過ごしてきた犬たちが、ヒトとのコミュニケーションを少しでも円滑にするために進化をしたと考えると、ヒトと犬はやはりパートナーとなるべく生きてきたんだなと感動しますね。
まとめ
犬の視線は多くの場合威嚇や要求など自分の優位を示すための手段です。とはいえ、犬たちは隣に座る私たちの顔をじっと見つめているときがあります。これは威嚇や優位を示そうとしているのではなく、ぼんやりとリラックスしている状態であるといわれています。
好きな人の顔を見ていたい、というのは人でも犬でも変わらないのかもしれませんね。